
シクロパラフェニレン (Cycloparaphenylene) はベンゼン環をパラ位で環状につなげたものであり、カーボンナノチューブの部分構造にあたります。材料科学や超分子科学の分野からも関心が寄せられている分子ですが、つい最近までその合成は達成されませんでした。合成を難しくしているのはそのひずんだ構造です。例えばベンゼン環が 8 個つながったものでは 74 kcal/mol ものひずみがあると計算されています。
そんなシクロパラフェニレンの初めての合成が 2008 年末に JACS に報告されました [論文1]。鍵となる合成戦略は、ひずみエネルギーを解消するためにシクロヘキサジエン環を組み込んだ状態で環化させて、その後芳香環化させるというものです。実際にこの方法で [9]-, [12]-, [18]シクロパラフェニレンの合成を達成しました。

ただ、この合成は芳香環化の前駆体の合成が非選択的で n=1,2,4 を混合物として得ていました。2009 年 7 月、伊丹健一郎教授らによって[12]シクロパラフェニレンの選択的合成が発表されました [論文2]。合成戦略は少し似ていて、ひずみエネルギーを解消するためにシクロヘキサン環を組み込んだ状態で環化させ、その後芳香環化させるというものです。カップリング反応を巧く使って、芳香環化前駆体を選択的に合成することに成功しています (詳細は論文参照)。

シクロパラフェニレンではありませんが、ひずんだ芳香環をもつ Haouamine A のラージスケール合成 において、Baran らはひずみエネルギーを解消するためにシクロヘキセノン環で大員環を巻いた後、芳香環化するという戦略を取っています。これらを見て私は、ひずんだ芳香環はシクロヘキサン環で導入して芳香環化するのが定石となりつつあるのかな、と思っていました。
ところがつい最近、山子茂教授らによって全く新しい戦略のシクロパラフェニレンの合成が報告されました [論文3]。何と正方形の白金錯体を臭素で還元的脱離させ、シクロパラフェニレンを合成するというのです (白金の結合角はほぼ 90 度のため白金錯体にはほとんどひずみがなく、また芳香環化ではなくベンゼン-ベンゼン結合の形成が鍵反応)。この方法は[4n]シクロパラフェニレンのユニバーサルな合成法になるのでは、とのことです。

ふと思ったのですが、正方形の白金錯体が円形のパラシクロフェニレンに変わる反応、手品の 『変形リング』 によく似ていますね (下記動画)。現代の有機合成反応を過去の人が見ればどれも手品のように見えるでしょうけど、これほど手品のような反応は他にないのではないでしょうか?笑。
[論文1] "Synthesis, Characterization, and Theory of [9]-, [12]-, and [18]Cycloparaphenylene: Carbon Nanohoop Structures" J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 17646.
[論文2] "Selective Synthesis of [12]Cycloparaphenylene" Angew. Chem. Int. Ed., 2009, 48, 6112.
[論文3] "Synthesis of [8]Cycloparaphenylene from a Square-Shaped Tetranuclear Platinum Complex" Angew. Chem. Int. Ed., 2009, Early View.
ところでシクロパラフェニレンの結晶構造とか取ってるのかな?
ベンゼン環が芳香族的な性質を示すのか、とか環が曲がってるのか、Ar-Arボンドが曲がってるのか、それとも僕のように全体的に歪んでるのか。
あごひげほどではないけど気になります。
この場合は8個じゃ無理だよな・・・倍くらい要りそう。いやもっとか。
また、それを更にねじってメビウスの輪みたいなものも出来ないのかね。
アイデア的には作るだけでJACSだと思いますが、どうでしょう?
真ん中に多価メタルをコーディネートさせて、ナノカーのタイヤにするとか。
しかも髪型変えた?スーツも変だし。
なんか現代のベードヴェンみたいになってまふ。
単結晶はこの3つの論文にはないように思います。
ただ論文1のDFT計算ではベンゼン環同士がstaggeredになっていて偶数では巧く交互になるが奇数ではより複雑になるだとか、メビウス環になるとベンゼン環1つあたり少なくとも2kcal/molはエネルギーが高くなるとか、そういった面白い分析はなされていますので一読ください。
> 就職難のきもたろう2222 さん
ベンゼン、ナフラレン、アントラセン・・・環にできるか?の話はシクラセン(cyclacene)と呼ばれてこれもまた合成ターゲットの1つです。
ベンゼン環だけのものが完成されていたかどうかは私にはわかりませんが、6員環と8員環は交互のものは合成されていたように思います。一度cyclaceneでジャーナルを検索してみてください。
メビウス環はおそらく未達だと思いますが、エネルギー的にも合成戦略的にもかなり難しいと思います。できたらNature/Science級ではないでしょうか?
> ローター漏444444 さん
メタルにコーディネートするかどうかは存じ上げませんが、シクロパラフェニレンに似たカーボンナノリングをフラーレンに錯化させた報告はあるので、ナノカーにシクロパラフェニレンの「タイヤチェーン」を付けることはできるかもしれません。笑
Complexation of a Carbon Nanoring with Fullerenes
http://dx.doi.org/10.1002/anie.200250728
> ぱぱぱぱ222 さん
実は会社をクビになって手品師になりました・・・
って、私なワケないじゃないですか!!笑
でも僕ちゃんの性格ほどは曲がってないと思うけどにゃー
いや、これはどっちにしても興味深い。
まるで人生のようだ。