反応機構クイズ (3)

問題
下図左のニトリルを塩酸/アセトニトリルで加水分解すると、下図右の化合物が副生した。この副生成物が生成する反応機構を書きなさい。



解答
反応機構が書けたら、あるいは諦めたら、こちらの論文(DOI: 10.1021/ol5028249)の Scheme 6 を参照してください。

[関連1] 反応機構クイズ (気ままに有機化学)
[関連2] 反応機構クイズ (2) (気ままに有機化学)

気ままに有機化学 2014年11月05日 | Comment(0) | クイズ

反応機構クイズ (2) の解答

反応機構クイズ (2) の問題は、下の反応のメカニズムは?でした。

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素直に反応機構を考えると、まずはマイケル反応が考えられます (下図、反応機構の矢印は省略)。しかし、マイケル付加体と問題の生成物とではニトリルの位置が異なります。

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そこで、例えば次のような反応機構も考えられます。マイケル付加体のエノラートがニトリルに付加して iminocyclobutane 中間体を経由して生成物に至るという経路です (下図)。

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しかし、ニトリルよりもエステルに付加が行くだろうとも考えられます。つまり、エノラートがエステルに付加-脱離を起こして cyclobutane 中間体へ、その後メトキシドによる開環とニトリル α 位からの巻きなおしが起こって生成物を与えるという機構です (下図、cyclobutane 中間体以降の矢印は省略)。

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しかし、上のような反応機構は実際の反応経路ではありません。正解は、マイケル付加で生じるエノラートと反対の α 位のエノラートからエステルへ付加-脱離が起こって bicyclo[2.2.2]octane 中間体へ、その後メトキシドによる開環を経て生成物を与えるという反応機構です (下図。こちらの方がひずみが少なそうですね)。

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この反応機構の面白いところは、生成物のシクロヘキサノンのカルボニル基は原料のシクロヘキセノンのカルボニル基ではなくシアノアセテートのカルボニル基である、という点です。一方、cyclobutane 中間体経由の機構では、生成物のシクロヘキサノンのカルボニル基は原料のシクロヘキセノンのカルボニル基です。そしてこれが反応機構検証のポイントになります。

1975 年の報告 [論文] では、14C や 13C でラベル化したシアノアセテートを利用して反応機構を検証しています。14C ラベル体の実験では、生成物の側鎖のエステル部分を Barbier-Wieland 分解によってベンゾフェノンとして切り出し、非放射性であることを確認。つまり、生成物の側鎖のエステル部はシアノアセテート由来ではないということです。13C ラベル体の実験では、シクロヘキサノンのカルボニル基部分に 13C が組み込まれていることを生成物および誘導体の NMR で確認。つまり、シクロヘキサノンのカルボニル炭素はシアノアセテートのカルボニル炭素由来だということです。これらの実験から、この反応は cyclobutane 中間体経由ではなく bicyclo[2.2.2]octane 中間体経由の反応機構であると結論付けられています。

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この反応 1 つで 2 度びっくりできそうです。まずは反応の結果、マイケル反応だけをねらって反応を仕込んだらニトリルが思わぬ位置に入っていた、という驚き。そして反応機構検証の結果、生成物のシクロヘキサノンのカルボニル基は原料のシクロヘキセノンのカルボニル基ではなくシアノアセテートのカルボニル基だった、という驚き。有機化学っておもしろいですね。

[論文] "Mechanism of the abnormal Michael reaction between ethyl cyanoacetate and 3-methyl-2-cyclohexenone" J. Am. Chem. Soc. 1975, 97, 666.

気ままに有機化学 2012年04月25日 | Comment(0) | TrackBack(0) | クイズ

反応機構クイズ (2)

[問題] 以下の反応のメカニズムを書きなさい。(解答は来週火曜日公開予定です)

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[余談] 2009 年 7 月に 反応機構クイズ (1) を執筆した際に、The Art of Writing Reasonable Organic Reaction Mechanisms を紹介しましたが、2010 年 1 月にその日本語訳版 有機反応機構の書き方 基礎から有機金属反応まで が出版されました。「基本的事項」「塩基性条件における極性反応」「酸性条件における極性反応」「ペリ環状反応」「ラジカル反応」「遷移金属反応」という章立てで、各章に詳しい解説と問題が載っており、反応機構の書き方を体系的に学べる良書です。訳者序によると、演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで は演習書であり、この本はその演習書につながる "合理的な反応機構の書き方" を説明する教科書のようなもので、学部高学年学生あるいは大学院生向けとのこと。反応機構の勉強をしたい方にはおすすめです。

気ままに有機化学 2012年04月20日 | Comment(0) | TrackBack(0) | クイズ

新・ケミカルパズル (2)

先週公開した 新・ケミカルパズル (1) にはたくさんの反響 (twitter 49 件、コメント 4 件) をいただいて、ありがとうございました。でも、実は前作は練習問題のようなものなのです。今作は、前作と同じくルールはとってもシンプルで特別な化学の知識も必要ありませんが、難易度もパズル性も大幅に向上した問題です。また、ChemDraw ファイルも末尾に付けましたので、印刷環境のない方でも愉しむことができます。

ルール
・ 各原子は上下左右の原子と単結合 or 二重結合 or 三重結合で結合する
・ すべての原子を下の 3 つの化合物に分割できたらクリア。(それぞれいくつ使用してもよい)


例題


問題 (難易度:★★★★☆)


上の図を印刷して、時間を計って解いてみてください。解けた方は感想をコメント欄にお願いします。私は紙で解く方が好きですが、ChemDraw ファイルも掲載しておきます (→ chempuzzle2.cdx)。ただし、化学描画ソフト chemdraw をインストールしていないとファイルは開けません。

次回、あるいはもう 1 問出題した次の回あたりで 「新・ケミカルパズルを解くヒント」 と 「新・ケミカルパズルの答え」 も公開したいと思います。

気ままに有機化学 2011年12月07日 | Comment(1) | TrackBack(0) | クイズ

新・ケミカルパズル (1)

ケミカルパズル (化学パズル) といえば Royal Society of Chemistry から出版されている Chemistry Su DokuChemistry Crosswords を思い浮かべる方も多いかもしれません。日本では、雑誌 『化学』 に Chemistry Su Doku が、雑誌 『現代化学』 には日本語の化学クロスワードが掲載されています。しかしながら、これらのパズルは既存のパズルを化学風にアレンジしたにすぎません。例えば Chemistry Su Doku は数独の数字を元素記号に置き換えただけで、パズルそのものは数独となんら変わりありません。

そこで、オリジナルのケミカルパズル (化学パズル) を考えてみました。ルールはとってもシンプルで、特別な化学の知識も必要ありませんので、ぜひ解いてみてください。

ルール
・ 各原子は上下左右の原子と単結合、二重結合、三重結合で結合する
・ すべての原子を propiolic acid (下図) に分割できたらクリア



例題



問題 (難易度:★★☆☆☆)
 

ちなみに、私のまわりの有機化学者 5 人に解いてもらったところ、最短 5 分、平均 13 分でした。上の図を印刷して、時間を計って解いてみてください。解けた方は感想をコメント欄にお願いします。難易度:★★★☆☆ の問題も近いうちに公開予定です。

[追記] 新・ケミカルパズルの問題の chemdraw ファイルをアップしました (→ chempuzzle1.cdx)。化学描画ソフト chemdraw をインストールしていないとファイルは開けませんのでご注意ください。

気ままに有機化学 2011年11月29日 | Comment(5) | TrackBack(0) | クイズ