アルコールのアシル化の最前線:論文2報

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ルコールのアシル化は、アルコールの保護として、またエステル化、マクロラクトン化として使われる汎用性の高い基本反応の1つです。そのため古くからよく研究されており種々の方法がありますが、中でも DMAP (ジメチルアミノピリジン)触媒による酸無水物を用いた方法は基質一般性が高く最も利用されています。

そんなよく知られたアルコールのアシル化ですが、2007 年の JACS に2報関連論文が発表されたので紹介しようと思います。2報共に日本人著者によるもので、かつ両方とも Article です。Article は読むのはしんどいけど色々書いてあって面白く、勉強になります。

ちなみに1報は京都大学の川端先生による、単糖類の選択的保護に関するもの。もう1報は名古屋大学の石原先生による無塩基・無溶媒下でのアシル化反応です。
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気ままに有機化学 2008年01月22日 | Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 (反応)

分子設計と選択性の妙:論文2報

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私は製薬企業で創薬化学研究者として薬候補の分子を合成しているわけですが、炭素鎖1つの増減、置換基が1つズレるだけで生理活性や毒性が大きく変わってくるということがザラにあります。

そして有機化学の反応においても触媒や反応剤のちょっとした分子設計の違いだけで反応の選択性が大きく変わってくるということもよく見られます。薬の活性も反応の選択性も、分子と分子の相互作用によって規定されるという点では同じだからだと思います。

さて、今回はちょっとした分子設計によって反応の選択性が大きく変わってくるという論文を2報、比較的最近のもの(2007 年と 2006 年)から紹介します。
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気ままに有機化学 2007年12月02日 | Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 (反応)

不可能を可能に!穏和で選択的な C-H 酸化反応

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よっちゃんの大学院時代の研究室の先輩がこんなことを言っていたのを今でも覚えています。「C-H 活性化、特に1級・2級・3級、sp1・sp2・sp3 の区別、ある官能基からの位置制御なんかを全部できるようになったら面白いのになぁ」と。

さて、今回紹介するのは Science から、電子密度や立体障害、Directing Group による選択性の高い、しかも反応点の予測ができる C-H 酸化反応です。ちなみに反応条件は極めて穏和で、複雑な分子の合成にも使えます。今まで不可能だった反応がまた1つ可能になりました!
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気ままに有機化学 2007年11月09日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 論文 (反応)

遷移金属なし!有機分子触媒による水素化反応

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有機分子触媒と言えば一番有名なのはおそらくプロリン。他にもシンコナアルカロイドや相間移動触媒、チオ尿素型、グアニジン型、各種酸・塩基、それから最近ではカルベン(特に NHC:N-Heterocyclic carbene)なんかが注目されてきていると言ったところでしょうか?

個人的には正直少しマンネリ感が出てきたかな、と思っていたのですが、久々に目を見張る有機分子触媒の論文が ACIEE に出ていました!遷移金属を使わない水素化反応です!
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気ままに有機化学 2007年10月15日 | Comment(7) | TrackBack(0) | 論文 (反応)

イオン液体中で加熱するだけでプラスチックを分解

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プラスチックのリサイクルは環境問題の観点から近年注目されています。そんな中、今回 Org. Lett. に報告されたのは、ナイロン繊維の一種である 6-ナイロンをイオン性液体中で 300 ℃に加熱するだけで、モノマー(単量体)であるカプロラクタムに分解するという反応です。

論文はこちら。
"An Efficient Method To Depolymerize Polyamide Plastics: A New Use of Ionic Liquids"
Kamimura, A., Yamamoto, S. Org. Lett. 2007, 9, 2533.

既存の 6-ナイロンを解重合する方法は高温高条件だったため、高沸点な溶媒中、耐圧容器内で行う必要があり、危険性を孕んでいます。(モノマーをポリマーにすることを重合というのに対して、ポリマーをモノマーに分解することを解重合と言います)

さて、今回発見された方法は不揮発性のイオン性液体中で加熱するだけなので、特別な反応容器や溶媒や触媒を必要としません(通常のガラス容器に入れて加熱するだけだそうです)。またイオン性液体は回収が容易で何度も再利用できます。ちなみに収率は 85 %と良好です。

今後、より低温でのプロセスや他のプラスチックの分解への応用が考えられますが、採算が採れるならきっと実用化されるのではないでしょうか。それからイオン性液体、まだまだ未知の利用方法があるかもしれませんね。

気ままに有機化学 2007年09月30日 | Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 (反応)