彼が得意とする反応の1つが aza-Cope−Mannich です。
今回はこの反応を用いた全合成の論文を3報紹介します。
1報目は 1993 年の (−)-Strychnine の不斉全合成。
[論文] J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 9293.
パラホルムアルデヒドと加熱するだけで、イミニウムの形成 → aza-Cope 転位 → 分子内 Mannich 反応を経てストリキニーネの三環性骨格を構築しています。しかもこの反応、800 mg スケールでも 98 %収率とほぼ定量的。やってみたくなる反応です。
さて、2報目は 2003 年の Didehydrostemofoline (Asparagamine A) の全合成。
[論文] J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 15284.
今回もほぼ定量的に同反応が進行。基質となるアミンはピロールとアクリル酸の Diels-Alder 反応により調製。やはり縮環構造のアルカロイドの骨格構築の強力な武器となっています。
そして最後に 2008 年の Actinophyllic Acid の全合成。
[論文] J. Am. Chem. Soc. 2008, ASAP
またまた Overman お得意の aza-Cope−Mannich 反応により一挙に骨格を構築。基質は鉄錯体を用いたエノラートの酸化的カップリングにより合成。非常に上手い合成です。
[参考] Actinophyllic Acidの全合成 (化学者のつぶやき)
[参考] Actinophyllic Acid (Totally synthetic)
こういった多縮環構造のアルカロイド、生理活性をもつ天然物に多くみられますが、合成医薬品にはあまり見られません。私は一応製薬企業の創薬化学者なので、「この反応使ってこれまでにないケミカルスペースを有する医薬品ができないかなぁ?」なんて妄想してたんですが、仮に活性が出ても構造を最適化しにくいことに気づいてちょっとガッカリ。でもこの反応やってみたいし、いつかこっそり変な化合物を作ってみようと思います。