さて、そんな記事を読んでいてふと思ったのですが、有機分子触媒による H-H 活性化は達成されたものの、C-H 活性化や C-C 活性化反応は未開発じゃないでしょうか?近いうちに何らかのブレイクスルーが起こるんじゃないかと期待していますが、至難の業かもしれません。是非どなたかチャレンジしてみてください!
そんなわけで今回紹介するのは、有機分子触媒とは逆に2種の遷移金属を用いたユニークな C-H 活性化や C-C 活性化反応の論文2報です。1種の金属では進まない反応も2種組み合わせることで起こるようになるのが興味深いところ。2報とも 2008 年のもので、以前このブログで紹介した論文の続報に当たるものです。さて、あの研究は今、どうなっているのでしょうか?
1つ目は 不可能を可能に!穏和で選択的な C-H 酸化反応 で紹介したイリノイ大学の M. Christina White 助教授のその後の仕事の紹介です。
White 助教授は C-H 酸化反応の後、分子内 allylic C-H アミノ化反応を報告しています。
"syn-1,2-Amino Alcohols via Diastereoselective Allylic C-H Amination"
Kenneth J. Fraunhoffer and M. Christina White, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 7274 -7276.
N-トシルカーバメートに Pd 触媒とビススルホキシドリガンド、酸化剤としてフェニルベンゾキノンを作用させるとアリル位 C-H アミノ化体であるオキサゾリジノンが得られるというもの。

そして最近、2種の金属を用いて分子間 allylic C-H アミノ化反応が達成されました。
"Catalytic Intermolecular Linear Allylic C-H Amination via Heterobimetallic Catalysis"
Sean A. Reed and M. Christina White, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 3316 -3318.
上の分子内 C-H アミノ化反応の条件では全く反応が進行しなかったようで、これに Cr(III)(salen) 錯体を加えることで目的物を得ることができたというもの。

ちなみにビススルホキシドリガンドがなくても反応は進行するものの収率は激減、また Cr(salen) の代わりに Al, Co, Mn(salen) でも収率が低下するようです。溶媒はこの反応の場合、THF よりも TBME が好収率を与えるようです。
最適化された条件で収率 50〜70 %と極めて高いわけではありませんが、ペプチド結合を(E)-オレフィンに置き換えたペプチドイソスター骨格を一挙に構築したり、抗生物質の deoxynegamycin を短工程で合成するなどで有用性を示しています。確かに新しい逆合成の経路を提供する反応になりそうです。
さて、気になるのは「なぜ Cr(salen) なんてものを加えたのか」という点ですが、White 助教授の研究室の別の研究で、アセテートを用いた π-allylPd 官能基化を Cr(salen) が促進することから、この系にも試してみたとのこと。しかしその研究は原稿執筆中とのことなので、どういった経緯で Cr(salen) にたどり着いたのかは残念ながらまだわかりません。
何にせよ、Pd だけでは進行しない反応が Cr を加えることで反応するようになるっていうのは面白いですね。
さて、今回紹介する2つ目は 脱炭酸的カップリングによるビアリール合成 で紹介した Lukas J. Gooßen 教授のその後の仕事です。
Gooßen 教授は安息香酸の脱炭酸的カップリング反応の後、α-オキソカルボン酸塩の脱炭酸的カップリング反応に展開したようです。
"Synthesis of Ketones from a-Oxocarboxylates and Aryl Bromides by Cu/Pd-Catalyzed Decarboxylative Cross-Coupling"
Lukas J. Gooßen et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 1–4.
α-オキソカルボン酸のカリウム塩とアリールブロミドを、触媒量の Cu、Pd で処理するとカップリングし、ケトンを与える反応です。

反応機構は前回と同じく、Cu(I)-phenanthroline 系によって脱炭酸を起こし、Pd-P(o-tol)3 系でカップリングを進行させるものです。

c のアシル銅種で極性転換(Umpolung)が起こっているのがちょっと面白いですね。今回はカップリング反応に利用したわけですが、このアシル銅種は他の反応にも使えるかもしれません。
遷移金属を使わない有機分子触媒がすごいのは言うまでもないですが、2種の金属を組み合わせて今まで起こせなかった反応が可能になるっていうのも素敵ですよね!
(有機分子触媒+遷移金属触媒の研究も盛んなので機会があれば紹介します)。
さて、最近紹介している論文は結合形成に焦点を当てたものが多かったように思うので、次回の論文紹介では結合開裂に焦点を当てた合成を紹介したいと思います。ではでは!