教科書は嘘!?エタンの安定配座の本当の理由



メルセデス・ベンツのシンボルマークって何かに似てると思いませんか?
そう!エタンの重なり型配座(eclipsed conformation)とそっくりですよね!
・・・え?そんなことは思わない?・・・そうですか。それは失礼致しました。

さて、エタンの安定配座が重なり型(eclipsed conformation)ではなくねじれ型配座(staggered conformation)なのは有機化学の初期に学ぶ基本的な原則の1つですよね。しかしその理由については教科書には曖昧な表現が多く、おそらく多くの人は「立体障害のため」だとか、もう少し詳しく「C-H 結合中の電子同士の反発のため」などと理解しているのではないでしょうか?(少なくとも私はそうでした)

結論だけ先に言ってしまえば、実は「立体反発」ではなく「超共役」がエタンのねじれ型配座の安定化の理由だったようです。

論文はちょっと古いけど 2001 年の Nature。
"Hyperconjugation not steric repulsion leads to the staggered structure of ethane"
Vojislava Pophristic & Lionel Goodman, Nature 411, 565-568, 2001.

さて、エタンの立体配座に関してはねじれ型が重なり型よりも安定で、そのエネルギー差は約 3 kcal/mol です。


このねじれ型配座が優先する原因として、
(1) 交換相互作用(exchange interaction)
(2) 静電相互作用(electrostatic interaction)
(3) 超共役(hyperconjugation)
の3つを考え、それぞれの寄与を計算で検討しています。

(1) 交換相互作用 (exchange interaction)
 この相互作用は、異なる電子対同士が同じ空間領域を占有するように位置した場合に、パウリの排他原理に基づいて生じる反発力のこと。この交換相互作用のない条件で計算したところ、通常と同じようにねじれ型が最安定配座となったそうです。

(2) 静電相互作用 (electrostatic interaction)
 言わずと知れたクーロン相互作用ですね。原子核間と電子間のクーロン反発に対する計算の結果、これが重なり型配座に不利に働くわけではないことが明らかとなったそうです。つまりこの (1) と (2) の結果から「立体反発」では説明がつかないことが分かったわけです。

(3) 超共役 (hyperconjugation)
 エタンの場合、C-H 結合間の被占軌道から空軌道への電子移動による電荷分散による安定化作用。驚いたことに、超共役のない条件で計算すると、ねじれ型ではなく重なり型配座が安定配座となったそうです!これによってエタンの重なり型配座の理由は「立体反発」ではなく「超共役」による寄与が大きいことが強く示唆されたわけです。なお、この結果は基底関数系に依存しない結果だそうです。

こういう教科書を覆すような研究って大好きです!
ちなみにこの論文にインスピレーションを得て、本業の製薬企業の創薬化学研究で、ある解析を試みたところ、興味深い知見が得られました。やっぱり色んな論文を読むのって大切ですねー。

気ままに有機化学 2008年02月27日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 論文 (その他)
この記事へのコメント
お恥ずかし名がら全く知りませんでした。

超共役がカルボカチオンの安定性に寄与していることは言わずもがなですが、まさかエタンのねじれ配座にも関係していたとは驚きです。
Posted by ある学生 at 2010年03月20日 19:42
> ある学生 さん
コメントありがとうございます!
私も超共役がエタンのねじれ配座に大きく寄与していると知ってびっくりしました(できれば計算だけでなく実験的にも証明してほしいところですがやはり難しいでしょうね)。やはり教科書や通説を鵜呑みばかりせず、疑ったり疑問をもったりする心を忘れないようにしないといけないですね。
Posted by 気ままに有機化学 (管理人) at 2010年03月30日 00:44
大学の有機の先生から聞きました。
にしても、この論文が発表されたのは十年も前なのに教科書は不動ってどういうこと?ww
Posted by phmchb at 2014年06月24日 19:34
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