通じない化学用語

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化学用語の呼び方は意外と人によってまちまちで、日本人と外国人の間のみならず日本人同士の間でも往々にして通じないことがあると思います。

例えば、ジクロロメタン(塩化メチレン)は「メチクロ」「ジクロロ」「ジクロメ」「エンメチ」「エンカメ」と知ってるだけで5種類の呼び名があり、普段使わない呼び名で言われると即座に反応できません。

もっと頻繁にあるのはアルファベット読みと単語読みの2つの混在。リチウムアルミニウムヒドリド(水素化アルミニウムリチウム)は頭文字を取って LAH と略されますが、これを「ラー」と読む人と「エルエーエイチ」と読む人に分かれますよね。

頻度は落ちるかもしれないですが、慣用名と IUPAC 名の混ざりも若干ややこしいものがあります。例えばジイソプロピルエチルアミンのことを「hunig's base」と読む人もいれば IUPAC 名の頭文字をとって「DIPEA(または DIEA)」と呼ぶ人もいます。個人的な印象では DIPEA(または DIEA)を使うのは比較的若い人な気がします。

以上では日本人同士の間で通じない有機化学用語についてダラダラと喋ってきましたが、次は日本人と外国人の間で通じない化学用語について。ネイティヴと化学の話をして(または講演を聞いて)単語がわからなかったこと(通じなかったこと)ってありませんか?

日本人とネイティヴの間で化学用語が通じないのは主に発音に依るところが大きいと思います。この最たるものが「alkane」「alkene」「alkyne」という言葉であり、アメリカではそれぞれ「アルケイン」「アルキーン」「アルカイン」と発音するため、日本語の「アルカン」「アルケン」「アルキン」とはちょうど1つずつズレる形になって 面白い ややこしいですね。そう言えば年配の方には「benzene(ベンゼン)」のことを「ベンジン」という人がいますが、実はこっちの方がネイティヴの発音に近いってことですね。

上の「alkane」「alkene」「alkyne」は知っていても意外と発音で間違えるのが「xylene(キシレン)」で、これは「ザイリーン」に近い発音になります。ちなみに「xylophone(シロフォン;木琴)」の発音も「ザイロフォン」に近い音ですね。この2つに「X-ray(X線)」を加えた3つは英語でしりとりをする際に X から始まる貴重な単語なので覚えておくといいかも。笑

もう1つ、ついつい間違えて発音しがちなのが「〜ium」という語尾。「ィウム」じゃなくて「ィアム」ですから。「palladium(パラジウム)」は「パレィディアム」、では「titanium(チタニウム)」は?…「ティタニアム」じゃなくて「タィタニアム」ですよ!「〜ium」を語尾にもつ元素は多いですから気をつけたいものです。

語尾で有名なのは「〜ase」という酵素名の語尾ですね。「ァーゼ」じゃなくて「ェィス」ですから。光学分割によく使われる「lipase(リパーゼ)」は「ラィペィス」ですし、。「tyrosine kinase(チロシンキナーゼ)」は「タィロシンカィネィス」ですね。

あと語尾で有名なのは「ion(イオン)」は「ァィオン」。「anion(陰イオン)」は「アナィオン」、「cation(陽イオン)」は「カタィオン」ですね。最後に語尾に注意ではないけどよく使う単語は「chiral(キラル)」は「カィラル」。

こういう日本語英語が生じた原因として考えられるのは2つ。1つは英語の発音を正確に日本語で表わすことができないこと。上では強引にカタカナで書きましたが、本当は発音記号でないと "th" "ph" "f" などの音や強弱を表わすことはできません。もう1つはドイツ語をベースにしている部分が多いということですね。上に上げた「〜ase(ァーゼ)」もそうですし、最たるものは「ナトリウム」や「カリウム」ですね。英語ではそれぞれ「sodium」、「potassium」です。

交通手段や通信手段が発達してネイティヴと化学の会話をする機会も増えてきた昨今、この際すべて国際化学用語に統一して欲しいものです。言語レベルでの統一は社会的に難しいかもしれませんが、個人レベルでは恥をかかないためにも気をつけたいものですね。

もしここで取り上げた以外に『日本人同士でも通じない化学用語』や『日本人と外国人で通じない化学用語』をご存じでしたら、コメントくださいね!

気ままに有機化学 2007年11月28日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 用語・英語
この記事へのコメント
あれ……「化学」の原稿、もちろん全くのオリジナルで書いたつもりでいたんですが、例がほとんどかぶってますね……。丸パクリと言われても反論できないなこれは。
盗用などの意図は全くなかったんですが、以前に読んで頭に残っていたのかもしれません。もしそうだとしたらお詫び申し上げます。
Posted by さとう at 2010年03月20日 11:57
興味深く、記事拝見しました。
ありがとうございます。
Posted by 温泉トラフグ at 2010年03月20日 19:20
> さとう さん
お返事遅くなり申し訳ありません。盗用などという気は全くありません。むしろ同じようなことを考えてらっしゃったと知って嬉しかったくらいです。全体的な文章のまとまりなどは私などよりさとうさんの方が圧倒的に良い仕上がりですし、全く気になさらないでください。

> 温泉トラフグ さん
ありがとうございます!コメントをいただけると次の記事への励みになります。
Posted by 気ままに有機化学 (管理人) at 2010年03月30日 00:37
たまたまこの記事を見つけて興味深く拝見しました。どれも,そうそうとうなずくものばかりでした。私がネイティブの発音を聞いて衝撃を受けたのは,「ブタジエン」「ビニル」「ピレン」「エーテル」「ケトン」「ニッケル」「セシウム」等々。私にはそれぞれ「ビュータダイイーン」「バイヌ(ル)」「パイリーン」「イーサー」「キートン」「ニコー」「スィーズィアム」と聞こえました。困ったときは『筆談(化学式)』ですね(笑)。
Posted by ひーちゃん at 2018年03月11日 18:26
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