どっちがお好き?α-トコフェロールの不斉合成2報

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トコフェロール(tocopherol、別名ビタミンE)にはメチル基の位置によって8つの異なる型があり、α-トコフェロールが最も強い生物活性を持ちます。合成的観点から言えば、不斉合成が難しいのは側鎖。なぜなら不斉点の近傍がノッペラボウな(官能基がない)ため、不斉反応や不斉補助基を導入しづらいからです。

今回はα-トコフェロールの不斉合成を2報紹介します。あなたはどっちの合成が好きですか?そしてあなたならどう不斉合成しますか?

1つ目の論文はこちら。
"Asymmetric Hydrogenation of Unfunctionalized, Purely Alkyl-Substituted Olefins"
Sharon Bell, Bettina Wüstenberg, et al. Science, 2006, 311, 642-644.

実際は反応メインの論文で、α-トコフェロールの合成は反応の有用性を示すおまけです。この論文はアルキル置換オレフィンの不斉還元の手法についてです。

これまでのオレフィンの不斉還元の基質は近くに配位性の官能基があるか、またはオレフィンに芳香環が結合している必要があり、基室質限定性が高いのが現状でした。しかし、今回の報告では、下に示す 11 のような P,N-リガンドを用いたキラルイリジウム触媒によって、一般的なアルキル置換オレフィンの高い選択性を誇る不斉還元が可能になったとのことです。(P,N-リガンド自体は珍しくないですが、N 源にピリジンを用いているのは初めて見た気がします)

そしてこの反応を用いてトコトリエノール 16 からトコフォロール 17 へ極めて高い選択性で還元することに成功しています。このトコトリエノールの不斉還元はこれまで実現しえなかったものであり、極めて綺麗な合成だと思います。

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2報目はこちら。
"Reagent Directing Group Controlled Organic Synthesis: Total Synthesis of (R,R,R)-α-Tocopherol"
Bernhard Breit et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 8670.

この論文のコンセプトは Reagent Directing Group(RDG;試薬配向性基)と呼ばれるもので、特殊な保護基を用いて保護のみでなく試薬の活性化にも関与させることで立体選択的な反応を可能にするものです。説明するより実際の反応を見た方が早いので、合成を見てみましょう。

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この反応では o-ジフェニルホスフィノベンゾイル (DPPB)基が RDG として働き、 DPPB に Rh が配位して活性化した状態からヒドロホルミル化が進行すると考えられます。

このDPPBを付けたまま合成を進め、もう1つの不斉点の構築にもうまく利用しています。

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この反応においても DPPB が Cu に配位するとともに脱離基としても働き、続く SN2' 反応により炭素-炭素結合を形成しています。

1つの RDG が2つの不斉点の構築に使えるというなかなか上手い合成。ただ、等量の DPPB が必要なこと、保護-脱保護などの官能基変換が必要になることを考えると不斉触媒反応の方が有用かな、というのが個人的な意見です。

…ということで、2報目の反応も面白いと思うけど、トコフェロールの合成としては私は1報目の方が好きです。あなたはどっちの合成が好きですか?もし時間があれば気軽にコメント欄にカキコ下さい。

気ままに有機化学 2007年11月20日 | Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 (合成)
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