Stenine はラクトンを除いても 5,6,7 員環の三環構造をもつアルカロイドで、しかもシクロヘキサン環上には 6 つの連続する不斉点がある複雑な構造を有しています。そんな Stenine をたった全 9 工程、14 %通算収率で全合成した論文が 2005 年に Aube によって報告されています [論文1]。
key step は次の段階です。続きを読む前に反応機構を考えてみて下さい。
反応機構を含めたバージョンは以下の通り。
まず Diels-Alder 反応により 6 員環を構築。このとき、かさ高い TBS 基との立体反発から endo 優先的に反応が進行するそうです。そこからアジドの求核攻撃、Schmidt 反応 を経て 5,6,7 員環をすべて一挙に構築しています。素敵な反応ですね。
あとはシクロヘキサン環上のカルボニル基を足がかりとしてラクタムを合成、シクロヘプタン環上のカルボニル基を Lawesson 試薬でチオカルボニル基にして還元的に除去してやれば Stenine の全合成の完成です。
Stenine を含めた Stemona alkaloids の合成は 5,6,7 員環の三環構築(特に 5,7 環構築、あるいはトランス 5,6 環構築)が難しいところなので、それを一挙に達成してしまうこの strategy は見事としか言いようがありません。全工程 9、通算収率 14 %、とても綺麗な合成ですね。
2009. 01. 17 追記
Diels–Alder/Azido-Schmidt 反応を用いた Atemona Alkaloids の合成の article が 2008 年の JACS に報告されました [論文2]。この合成に感銘を受けた人は是非こちらも参照してみてください。
[論文1] "An Expeditious Total Synthesis of (±)-Stenine" J. Aube et al. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 15712
[論文2] "Syntheses of the Stemona Alkaloids (±)-Stenine, (±)-Neostenine, and (±)-13-Epineostenine Using a Stereodivergent Diels–Alder/Azido-Schmidt Reaction" J. Aube et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 6018–6024