ロータマーか、ジアステレオマーか?


上図の化合物を HATU を用いた縮合反応 (中央のエステル部) で合成し、生成物の NMR を確認するとバリン α 位のプロトンに対応するピークが 2 つ、4.59 ppm と 4.28 ppm に観測されたそうです。さて、これは上図上段のようなロータマーに由来するものでしょうか?それとも上図下段のように α 位がエピマー化したことによるジアステレオマーに由来するものでしょうか?どちらなのか、どのように確認すればよいでしょうか?

最近、NMR を使って簡便にロータマーかジアステレオマーかを判別する方法が報告されました [論文1]。この論文は私の先輩に教えてもらったのですが、転載の許可をいただきましたので、このブログでも紹介させていただきます。

* * * * *

第三アミドやカーバメートの NMR スペクトルではしばしば rotamer と思われるシグナルが観測されますが、対になっているシグナルが果たして rotamer に由来するのか、diastereomer や不純物の混入によるものなのかが分からずにモヤモヤした気分になります。常法として昇温測定などもありますが、ちょっと面倒、昇温してもきれいな結果が得られるわけではないということでちょっと難ありです。

この論文では、NOE のパルスプログラムを使い、照射して飽和させたシグナルが、平衡など相互変換可能な分子種 (rotamer など) 間では飽和の移動が起こるということを利用して、ペアになっているシグナルが rotamer 由来なのかを簡便に確認できると報告しています。(diastereomer や関係のない不純物なら、照射シグナルは観測されないことになります)

条件としては
・ シグナルが分離していること (照射して影響を与えない)
・ 2者の相互変換が十分速いこと

測定は簡単なので試してみる価値はあるかも。

[論文1] "Rotamers or Diastereomers? An Overlooked NMR Solution" J. Org. Chem. 2012, 77, 5198.


気ままに有機化学 2012年06月14日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 論文 (その他)
この記事へのコメント
NOESYスペクトルですと、コンホマー同士や水と水酸基など交換しているシグナルはポジのクロスピークが出ますが、同じような原理でしょうか。
Posted by anonymous at 2012年06月15日 10:59
え、溶媒変えて測って、比率が違えばロータマーってのは無しでしょうか?
Posted by ぱぱぱ at 2012年06月17日 21:17
> anonymous さん
コメントありがとうございます。おそらく同じ原理 (chemical-exchange) に基づくもとだと思います。下の、Ottawa 大学の NMR の専門家のブログのエントリーもご参照ください。

What are Those Positive Peaks in My NOESY Spectrum?
http://u-of-o-nmr-facility.blogspot.jp/2008/07/what-are-those-positive-peaks-in-my.html

> ぱぱぱ さん
コメントありがとうございます。もちろん論文にも溶媒変える方法 (昇温測定、コンプレックス形成) もあると紹介されていて、しかしこれらの方法はモノが貴重で回収しなければいけないときなどには使いにくいと書かれています。溶媒変える方法は溶媒によってはモノも回収できるので問題ないと思います。

ただ、溶媒変えても比率があまり変わらなかった場合や、溶媒を変えると他のピークと重なる場合などには、この論文の方法も使えるのではないでしょうか。溶媒検討や昇温測定と相補的に使うことでより多くの場合に対応できるのではないかと私は思っています。
Posted by 気ままに有機化学 at 2012年06月17日 23:30
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