
Pd2(dba)3 は有機合成で汎用される 0 価パラジウムのひとつです。市販もされていますので、使ったことがある方も多いのではないでしょうか。しかし最近、市販の Pd2(dba)3 の純度は悪い場合には 64 %程度しかなく、分解物として Pd nanoparticle を含むことが報告されました [論文]。
論文では、次のような実験が行われています。
・ NMR を使って Pd2(dba)3 の純度を測定する方法を確立。
・ 市販の Pd2(dba)3 の純度を測定した結果 92-64 %。
・ 99 %の純度の Pd2(dba)3 を調製する方法を確立 (論文に記載)。
・ 固体状態では 1 ヶ月程度は安定、溶液状態では 1 時間でもそこそこ分解する。
・ Pd2(dba)3 が分解して生じる不溶性のパラジウムブラックを単離し、10-200 nm の純粋な Pd の nanoparticle であることを確認。
このことから、次のような注意が促されています。
・ 市販の Pd2(dba)3 を購入してそのまま使うと、mol% や TON や TOF が不正確になる。
・ Pd2(dba)3 は可溶性の Pd(0) 源としてだけでなく、10-200 nm の Pd nanoparticle 源としても機能しうるため、均一系の反応だと思っていても実は Pd nanoparticle による不均一系の反応の可能性がある。
・ 純度不明の Pd2(dba)3 を使うと再現性が取れない実験につながる。例えば、真の活性種が Pd nanoparticle である場合には純粋な Pd2(dba)3 では反応は触媒されない、など。
・ 金属複合体を触媒前駆体として使う際には、その純度や性質にもっと注意を払うべき。
Pd2(dba)3 を用いた重要な反応を行う際にはその純度にも注意が必要ですね。なお、これと関係するかはわかりませんが、Organic Syntheses の Pd2(dba)3 とキラルホスフィン配位子を用いた不斉辻-トロスト反応では Strem 以外のサプライアーから購入した Pd2(dba)3 ではエナンチオ選択性が下がるとの記載があります。もしかしたら不斉配位子の噛んでいない Pd nanoparticle も反応を触媒し、エナンチオ選択性が下がるのかもしれません。
[論文] "Pd2(dba)3 as a Precursor of Soluble Metal Complexes and Nanoparticles: Determination of Palladium Active Species for Catalysis and Synthesis" Organometallics, 2012, 31, 2302.
[参考] Homogeneous catalysis not always what it seems (NNNS chemistry blog)
[関連] 触媒は思わぬところに; 論文 3 報 (気ままに有機化学)
そう言っていただけると嬉しいです。もし他に面白い論文等ご存知でしたら教えてくださいね。
> ROCS さん
確かに Pd(dba)2 も文献の反応に出てきますね。私は今まで使ったことがなくその性質をよくわかっていないのですが、Pd2(dba)3 との相違点などご存知でしたら教えていただけませんか?