ジアゾ基転移反応は、一級アミンをアジドへ変換したり、活性メチレンにジアゾ基を導入する反応です。ジアゾ基転移試薬 (diazotransfer reagent) としてトルエンスルホニルアジドやトリフルオロメタンスルホニルアジドなどがありますが、これらのスルホニルアジド類の多くは爆発性を有するため、より安全なジアゾ転移試薬が望まれます。
爆発性を大幅に低減したジアゾ転移試薬として、イミダゾールスルホニルアジド塩酸塩 [論文1]、ベンゾトリアゾールスルホニルアジド [論文2]、2-アジド-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロホスファート [論文3] などが報告されています。最後のものについては最近 東京化成 から発売されました。
さて、1 つ目と 2 つ目のものについて最近注意事項が発表されたのでご紹介します。
1 つ目のイミダゾール誘導体について、塩酸塩よりも硫酸塩やテトラフルオロホウ酸塩の方がよいことが報告されました [論文4]。塩を変えても反応性にはほとんど影響はなく、塩酸塩は吸湿性があり乾燥条件で保存しないと数週間でアジ化水素酸の匂いのする茶色の液体に変わってしまうそうです (嗅いだのか?)。しかも塩酸塩は衝撃にもセンシティブなのだとか。一方で、硫酸塩やテトラフルオロホウ酸塩は、塩酸塩に比べて、保存の安定性も上がり、衝撃に対するセンシティビティも下がっているようです。これから作るなら、より安全な試薬としてこれらの塩のものを作るのがよいと思われます。(ちなみに、上図右の化合物も塩酸塩の吸湿性が問題となりヘキサフルオロホスファートにしたそうです)
2 つ目のベンゾトリアゾール誘導体について、酸性の後処理をすると爆発することがあると報告されました [C&EN]。この試薬を開発した研究グループで実際に起こった事故で、誤って後処理を酸性で行い、金属スパチュラで固体をかきとろうとしたところ、爆発が起きたそうです。実験の際には文献の手順を守らないといけないし、Organic Azides: Syntheses and Applications などを読んでしっかり防護して実験する必要があると述べられています。特に酸性にすると微量の残存アジ化ナトリウムが爆発性のアジ化水素酸になる可能性があるのでやってはいけないとのことです。
これらの新しい試薬は旧来の試薬に比べて爆発性が大幅に低減しているのは間違いありませんが、やはりアジド誘導体なので充分に注意して取り扱う必要があります。
[論文1] "An Efficient, Inexpensive, and Shelf-Stable Diazotransfer Reagent: Imidazole-1-sulfonyl Azide Hydrochloride" Org. Lett. 2007, 9, 3797.
[論文2] "Benzotriazol-1-yl-sulfonyl Azide for Diazotransfer and Preparation of Azidoacylbenzotriazoles" J. Org. Chem. 2010, 75, 6532.
[論文3] 熱および衝撃に安定なジアゾ基転移反応試薬 (東京化成) の文献参照
[論文4] "Sensitivities of Some Imidazole-1-sulfonyl Azide Salts" J. Org. Chem. 2012, 77, 1760.