新反応発見の方法論 (1)

突然ですが、質問です。「既存の反応はどのようにして見つかってきたのでしょうか?」。様々な答え方があると思いますが、もし私が聞かれたら 「多くの反応はセレンディピティとアナロジーによって見つかってきた、と思う」 と答えます。しかし、「では、新反応を効率的に見つけるためにはどうすればよいか?」 と聞かれたら、私は答えに窮してしまいます。「うーん、セレンディピティの頻度を上げるかアナロジーの範囲を広げたり加速したりすればいい・・・けど具体的な方法は・・・あ、ミーティングの時間だ、じゃ、また」 といったところですね。笑

さて、最近、新反応を積極的に見つけ出す方法が報告されましたので紹介します。1 つ目は 2011 年 9 月に John F. Hartwig らによって Science 誌に報告された手法です [論文1]。それは、下図の 17 の基質をすべて混ぜ、そこに種々の金属触媒とリガンドの組み合わせを入れて何らかの反応が起こるかどうか見るというもの。


金属触媒 16 種 (15 種+触媒なし) とリガンド 24 種 (23 種+リガンドなし) を、下図のようにガラスチューブを 384 (=16×24) 個並べてすべての組み合わせを反応させるのです。これによって起こりうる反応の組み合わせの数は、5 万種類以上にもなります。(基質の組み合わせがクロスカップリング 17×16/2 とホモカップリング 17 で、それぞれについて 15 の金属触媒と 24 のリガンド)


では反応が起こっているかどうかはどうやって確認するのでしょうか。その鍵は質量分析です。上の図の基質 17 種類はいずれも 10〜13 の重原子 (C, N, O, F, S) を含むので、カップリング反応が起きると、基質の分子量の範囲とは異なる範囲に分子量が観測されるはずです。

ポジティブコントロールとして 3 つの既知反応がこの実験系で観測されるか見たところ、期待される生成物の分子量がきちんと観測されました。これは、17 の基質の混合物からでも個々の触媒反応を確認することができた、ということです。実際に、384 の触媒とリガンドの組み合わせの中から、3 つもの新規反応を見出したというのです (詳細は論文参照)。この方法で見出された反応は、17 の基質の混合物中で進行する反応なので、官能基許容性が高いのが特長。さらなる応用としては、酸化剤・還元剤・酸・塩基などの添加剤や一酸化炭素・二酸化炭素を加えた条件での反応探索が考えられるとのことです。一方でいくつか制限もあります。比較的速い反応によって基質がなくなってしまうと、より遅い反応はこの実験では見逃すことになってしまいます。また、官能基許容性の低い反応はこの実験系から見出すことはできないでしょう [論文2]

多くの方が考えたことがあるのではないかと思いますが、私は廃液タンクを眺めていて 「これだけ色々なモノが混ざっていたら未知の反応が起こっているかも」 と思ったことがあります。今回紹介した手法は、少々強引に言えば、「廃液タンク反応」 を系統的に探索できるようにした方法と言えるかもしれません。 [→ 新反応発見の方法論 (2) へ続きます。]

[論文1] "A Simple, Multidimensional Approach to High-Throughput Discovery of Catalytic Reactions" Science 2011, 333, 1423.
[論文2] "High-Throughput Discovery of New Chemical Reactions" Science 2011, 333, 1387.


気ままに有機化学 2011年12月13日 | Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 (反応)
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