日本語で読むクロスカップリングの基礎・産業応用・最新の動向


ノーベル化学賞の発表からすでに一ヶ月以上が経ちましたが、まだまだ熱が冷める様子はありません。最近、Wiley 出版は ホームページ で受賞者の論文を無料公開しましたし、北海道大学では鈴木章先生の業績を紹介する 電子ブック動画 を作成しています。さらに今月号の 化学現代化学 ではそろってノーベル化学賞の特集が組まれています (月刊化学は ホームページ で無料で内容の閲覧ができます)。

こうしてクロスカップリング反応に関する情報が大量にメディアに流れる一方、次のように思っている方も結構多いのではないでしょうか?

 「実はクロスカップリング反応のこと、あまりよくわかってないんだよね」
 「最近のクロスカップリング反応の進展が著しくてフォローできていない」

クロスカップリング反応に特化した本ってあまりないんですよね、特に日本語の本には。そんな中、シーエムシー出版から 『クロスカップリング反応―基礎と産業応用』 という本が昨日出版されました。私は編集者様のご好意で出版前に一冊いただくことができましたのでご紹介したいと思います。この本のいいなと思った点は以下の 4 つ。

 ・ 鈴木章、檜山爲次郎など第一線の研究者の筆によるもので、深く正確に書かれている
 ・ 原稿は 2006 年〜 2010 年に書かれたもので、最新の研究の動向も盛り込まれている
   (鉄触媒での鈴木-宮浦クロスカップリングボロン酸の進化した形 なども)
 ・ リファレンスもしっかり付けられており、気になった文献はすぐに調べることができる
 ・ 日本語で書かれており、しかも安価 (2500 円、234 ページ)

一方で注意点としては、この本一冊でクロスカップリングのすべてが網羅されているわけではないという点です。より網羅的に勉強したい方には Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions が良いかと思いますが、英語で 938 ページあり、2004 年出版なのでそれ以降の進展は書かれていません。ですので、この本は、網羅的ではないものの、最新の研究も含めてクロスカップリングを日本語で勉強したい方には最良の本と言って間違いないと思います。特に下の目次に並んでいる各トピックスに関してはかなり詳しく書かれています。正直のところ、私も知らなかったことがたくさんあり、とても勉強になりました。

第 1 編 基礎編
 鈴木-宮浦クロスカップリングの概要
 有機ボロン酸およびその誘導体合成の動向
 鈴木-宮浦クロスカップリング反応に用いられるホウ素類
 薗頭反応,溝呂木・ヘック反応

第 2 編 産業応用
 鈴木カップリング反応の最近の進歩
 ニッケル触媒鈴木-宮浦反応の開発
 ピリジン環のリチオ化を経るピリジルホウ素化合物の製法とその反応
 (医薬品) Buchwald-Hartwig アミノ化反応
 (中間体) Pd 触媒を用いた実用的合成法 (ヘック反応) の展開
 (有機エレクトロニクス) 二金属反応剤のクロスカップリング反応

第 3 編 クロスカップリングの新時代
 新しいタイプの求核剤・求電子剤
 含フッ素官能基導入法の検討
 マイクロ波合成によるカップリング反応
 フルオラスケミストリーとカップリング反応
 リサイクル型固定化 Pd 触媒の開発
 鉄触媒クロスカップリング反応
 鈴木カップリングを革新するボロン酸誘導体

上のトピックスに興味のある有機化学者の皆さんへ、オススメです。

101122.gif 【読者プレゼント】 今回紹介した書籍を 1 名様にプレゼント!

嬉しいことに今回、出版社様のご好意で無料で一冊 『クロスカップリング反応―基礎と産業応用』 をいただきました。つまり 2500 円分お金が浮いたわけです。その分を読者様にドドーンと還元、1 名様に 『クロスカップリング反応―基礎と産業応用』 をプレゼントします!もちろん私の読み古しではなく、新品をお送りします。応募方法はこちらの メールフォーム にお名前 (本名でもハンドルネームでもOK) とメールアドレスを記入して 「読者プレゼントへの応募」 と書いて送信してください。応募は 1 人 1 口まで。そこは化学者の良心でお願いします。応募の〆切は今週 11/26 (金) の 24 時まで。当選者は抽選で選びたいと思います。

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気ままに有機化学 2010年11月22日 | Comment(0) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク
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