有機合成実験の後処理に関する Tips まとめ


料理にもちょっとした工夫やコツがあるように、有機化学の実験にもそういったものがあります。今回は有機合成実験の後処理に関する Tips 10 個と関連サイト 5 個をまとめて紹介します。ちなみに Tips というのはコツ・ノウハウ・工夫・豆知識のことで、トリイソプロピルシリル基のことではありませんので。笑

1) トリフェニルホスフィンオキシドの除去
 Wittig 反応などで生じるトリフェニルホスフィンオキシドは除去は頭痛のタネになることも多いかと思います。目的物が溶ける場合は、ヘキサン/エーテル=4/1〜2/1 に溶かして析出したトリフェニルホスフィンオキシドをろ過で除けます (エーテルは少ない方が除去率が高い)。

[2013/06/25 追記]
TPPOを塩化マグネシウムとの錯体化で除去する (気ままに有機化学)

2) スズ化合物の除去
 Stille カップリングなどで生じるスズの残骸を除くのは案外厄介なものです。もし生成物がアセトニトリルに溶け、エーテル (ヘキサン) に溶けにくいのなら、粗生成物をアセトニトリルに溶かし、エーテル (ヘキサン) で数回洗浄すると、スズ化合物をエーテル (ヘキサン) 相に除去できます。また、2〜5%のトリエチルアミンを溶媒に混ぜたカラムも効果的。フッ化カリウムをシリカに混ぜる方法もありますがトリエチルアミンの方が楽だと思います。ちなみに、分液段階でフッ化カリウム水溶液で洗浄する方法もあり、スズ化合物で分液がエマルションになる場合にフッ化カリウム水溶液にすると分液性が良くなることがあります。

[2010/11/06 追記]
化学者のつぶやき さんで紹介されていましたが、精製のカラムを普通のシリカゲルの代わりに、無水炭酸カリウムを 10wt% 混ぜたシリカゲルを使ってカラムをするだけでもスズの残骸を除去できるようです。私自身は Stille カップリングの後はアミノシリカでカラム精製することでスズを除いています → スズ化合物除去の 『マイ』 スタンダード : アミノシリカ

3) ピリジンの除去
 分液段階:希塩酸や硫酸銅水溶液で水層に落ちます。濃縮段階:エバポレーターでできる限り飛ばし、トルエンで数回共沸させれば除去できます。個人的にはトルエン共沸が好きです。

4) 銅塩の除去
 銅塩を大量に含む反応の後処理には、飽和塩化アンモニウム水溶液 (あるいはアンモニア水) でクエンチしてしばらく回した後に、分液操作でも飽和塩化アンモニウム水溶液 (あるいはアンモニア水) で数回洗浄するとスムーズ。銅とアンモニアの錯形成を利用した方法。チタン塩も同様の方法で除去できるようです。

5) ジメチルホルムアミドの除去
 DMF は分液で水層に落とすか減圧下の加熱で飛ばすことが多いと思います。分液で水層に落とす場合、酢酸エチルだけよりも酢酸エチル/ヘキサンや酢酸エチル/トルエンの方が分液性が上がります。他の方法として、目的物が固体で水に溶けにくい場合は、過剰量の水を加えて目的物を析出させ、それをろ取したあとで分液するという方法もあります。

6) 目的物が水に溶けて抽出できない
 クロロホルム(ジクロロメタン)/イソプロパノール(メタノール)=10/1〜3/1 で抽出、あるいは THF で抽出、あるいは目的物の溶けた水層をそのまま濃縮。

7) 分液で濃い色が付いて界面が見えない
 私の第一選択は懐中電灯を当てること。有機層と水層の光の透過性の違いで界面が見えることが多いです。また、氷や NMR チューブキャップを入れると界面に浮くそうです (後者は Stoltz 研情報) 。

8) LAH の後処理
 これは有名なので LAH 還元をしたことがない方にも頭の片隅に置いてほしい後処理。詳細は 水素化アルミニウムリチウム-Wikipedia の 「反応後の処理」 を参照。

9) ラネーニッケルの後処理
 ラネーニッケルは磁石にくっつく性質があります。なので反応後、ラネーニッケルを磁石でナスコルの底に吸引させておいて溶媒で洗い流すと便利!

10) 水銀をこぼしたときは
 水銀マノメータや水銀温度計をうっかり破壊してしまった、そんな時。液体のまま回収するのは大変ですが、ドライアイスで固めて集めると簡単!

最後に、この記事は以下のサイト・本を参考にさせていただいています。リンク先には今回紹介した Tips 以外のものも載っていますので是非一度目を通してみてください。また、他に有用な Tips やサイト・本などをご存知の方はコメント欄でお知らせいただけると幸いです。

Workup Formulas for Specific Reagents (Not Voodoo)
Work-Up (ChemKnowHow.com)
天然物談話会 夜ゼミレジュメ 2000年2001年 (菅敏幸教授)
ほろ酔い化学者のブログ
若き有機合成化学者の奮闘記
研究室ですぐに使える 有機合成の定番レシピ (Amazon)

[2013/06/25 追記]
反応の後処理 (実験テクニックのまとめ作ろうぜ@化学板 Wiki)

気ままに有機化学 2010年04月17日 | Comment(6) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク
この記事へのコメント
はじめまして1q87です。
いつも楽しみにしながらチェックしています。

私は最近まで有機合成をしていました。
後処理関連で、
先輩がセライトでグリニャール後のマグネシウムイオンを取り除いていました。(生成物はたしかケイ素化合物でした)この方法は個人的には結構驚きでした。

これからも更新を楽しみにしています。
Posted by 1q87 at 2010年04月17日 23:31
日中溜まったストレスの処理は、、、?
Posted by たけやん at 2010年04月18日 21:05
ちんかすはお風呂でよく洗いましょう。

ちなみに、トリフェニルホスフィンオキサイドは、メタノールによく溶けるので、メタノールから再結晶できれば、それも一つの手だと思います。
Posted by すずのかす。 at 2010年04月19日 21:01
> 1q87 さん
コメントありがとうございます!確かに金属塩をセライトで取り除く方法もありますね。銅塩などもセライトろ過する人もいると聞いたことがあります。

> たけやん さん
プライベートのストレスはブログでは見せないのです。笑

> すずのかす。 さん
コメントありがとうございます!情報は有用なので次回は下ネタなしでお願いします。笑
Posted by 気ままに有機化学 (管理人) at 2010年04月30日 18:38
ストルツのNMRチューブのキャップが、
界面に浮くというのはちょっと笑ってしまいました。
たまたま見つけたのだと思いますが、あのキャップって有機溶媒にさらすと、なにかが溶けてきそうな気がしますが、どうなんでしょう。
氷は今度試してみます。
Posted by キャップ at 2010年05月05日 15:52
光延反応の後処理は(TPPO+ヒドラジド)クロロホルムを含む混合溶媒で濾取すると濾液に逃げますね.IPE:CHCl3 4:1とか.

ところで,DMFをカラムで除くいい方法ありません?
Posted by at 2015年07月31日 11:06
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