Nature/Science 誌に有機化学が続々登場

私の大学院時代の師匠にあたる方は論文セミナーで Nature/Science 誌をよく取り上げる人でした。しかしその頃 Nature/Science 誌に有機化学の論文が掲載されるのは月に 1 つもありませんでした。ところがこの 9 月〜 11 月はたった 3 ヶ月の間に 9 つもの有機化学系論文が!少しジャーナルの色が変わってきているのかもしれませんね。

"Scaleable catalytic asymmetric Strecker syntheses of unnatural α-amino acids"
Eric N. Jacobsen et al. Nature, 2009, 461, 968.
チオウレア触媒を用いた不斉 Strecker 反応による非天然型α-アミノ酸のグラムスケール合成。ちなみに日本では長瀬産業が丸岡触媒を用いた不斉アルキル化で非天然型アミノ酸を合成しています。なお 現代化学今月号 には佐藤健太郎氏による Strecker 反応のレビューあり。

"Formation of ArF from LPdAr(F): Catalytic Conversion of Aryl Triflates to Aryl Fluorides"
Stephen L. Buchwald et al. Science, 2009, 325, 1661.
芳香族トリフラートをフッ化物へ変換する反応。Buchwald らしく配位子 tBuBrettPhos が鍵のようです。化学者のつぶやきに 解説記事 あり。

"Chiral Organic Ion Pair Catalysts Assembled Through a Hydrogen-Bonding Network"
Takashi Ooi et al. Science, 2009, 326, 120.
水素結合で構築されたキラルイオンペア有機触媒によるアシル等価体の共役付加反応。超分子の構造はX線で解析。有機分子触媒の新しいクラスの先駆けとなるか。

"Synergic Sedation of Sensitive Anions: Alkali-Mediated Zincation of Cyclic Ethers and Ethene"
Robert E. Mulvey et al. Sience, 2009, 326, 706.
アルカリ金属と亜鉛の bimetallic な塩基を用いて、THF α位やエチレンの安定な脱プロトン化を達成。得られた錯体は驚くべきことにX線構造解析ができるほど安定だったとのこと。更にベンジルクロリドによるアニオンのトラップまで。不可能がどんどん可能に。

"Isolation of a C5-Deprotonated Imidazolium, a Crystalline "Abnormal" N-Heterocyclic Carbene"
Guy Bertrand et al. Science, 2009, 326, 556.
イミダゾリウム塩の C5 位を脱プロトン化したアブノーマル NHC の合成、単離、X線構造、反応について。化学者のつぶやきに 解説記事 があります。ちなみに同時期に JACS に新規 NHC として diamidocarbene が報告されています。

"Carbenes As Catalysts for Transformations of Organometallic Iron Complexes"
Robert H. Grubbs et al. Science, 2009, 326, 559.
鉄-カルベン錯体を作ろうと Fe(COT)2 に NHC を加えて配位子交換させようとしたときに鉄三核錯体が取れたとのこと。化学者のつぶやきに 解説記事 があります。

"Reversible Reactions of Ethylene with Distannynes Under Ambient Conditions"
Philip P. Power et al. Science, 2009, 325, 1668.
重い多重結合の一種 Sn≡Sn がエチレンとの [2+2] 反応を可逆的に起こすことの発見。化学者のつぶやきに 解説記事 があります。

"Selective Phenol Hydrogenation to Cyclohexanone Over a Dual Supported Pd–Lewis Acid Catalyst"
Buxing Han et al. Science, 2009, 326, 1250.
Pd/C, H2 に AlCl3 のようなルイス酸を加えることでフェノールからシクロヘキサノンへの選択的還元ができる (>99.9% conversion/selectivity)。ルイス酸を加えないと一部がシクロヘキサノールまで過剰還元。シクロヘキサノンはナイロンの原料で、現在はシクロヘキサンの酸化で作っています。ちなみに同じ日に別グループからも似た内容の 論文 が出ていました。

"Ligand-Enabled Reactivity and Selectivity in a Synthetically Versatile Aryl C-H Olefination"
Jin-Quan. Yu et al. Science Express.
フェニル酢酸類の C-H オレフィン化反応の開発。Pd 触媒、1気圧酸素下、リガンドが鍵の模様。実は内容読めてませんが、Chemistry World に 紹介記事 がありました。

こうして並べてみると、どれも素晴らしい研究成果であることは間違いないのですが、私にはどうも JACS/Angewandte との違いがピンときません。それから Nature Chemistry も創刊されましたし、Chemical & Engineering News によると近々いくつかジャーナルが新刊されるようです。今後の有機化学のジャーナルは一体どういった勢力図になるのでしょうか?

気ままに有機化学 2009年12月05日 | Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 (その他)
この記事へのコメント
ミーハーですいません。

ScienceとかNatureに載っている有機化学の論文って、かなり完成されたものっていう印象が強いです。
JACSとかAngew Chemで速報が出ていて、さらにそれが発展したような場合に、「どうだぁ、これがわしらの科学じゃあ」って感じでしょうか。

以前の発表と併せて眺めれば、だから、Scienceかあって思えるのかもしれません。
Posted by ミーハー at 2009年12月06日 05:14
変態ですいません。


グラブスのまとめ方は流石だね。
痴性、じゃなくて知性を感じます。
それに錯体がまた何かの触媒として使えるんだったらもう一報出せるってのも美味しいなぁ。
Posted by soesoe123 at 2009年12月10日 04:31
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