反応機構クイズの解答

問題はこちら

[問題] 反応機構クイズ

[解答][補足]
 今回はどうやって解答の反応機構が見出されてきたか、歴史に沿って紹介します。
 最初はこの求核置換反応の反応機構も、よく知られている付加-脱離型 (Addition-Elimination) の σ 錯体を経由した SN(AE) か、あるいは脱離-付加型の (Elimination-Addition) のベンザインを経由した SN(EA) だと考えられていました。 

090711_1.bmp

 問題はどちらの反応機構で進行しているのかということなのですが、下に示すように、ピリミジン 5 位を重水素置換したものを反応させると生成物には重水素は含まれないこと、また 6-Br 体ではなく 5-Br 体から反応させても 6-NH2 体が取れることから、ベンザイン経由で間違いない!・・・そう思われました。

090711_2.bmp

 しかし、カリウムアミド以外の強塩基で反応させたらどうだろうと思い、リチウムピペリジンで反応させたときに事件は起こります。ピペリジン 6 位置換体は全くできず、開環体が得られてきたのです。つまり、σ 錯体経由やベンザイン経由の置換反応は全く起きなかったのです。

090711_3.bmp

 この開環体は、リチウムピペリジンがピリミジン 2 位に求核付加し開環・脱臭化水素することで生成すると考えられます。そこで、カリウムアミドの反応ももしかしたら同様の反応機構で進行しているかもしれない、そう思い立ったのです。

090711_4.bmp

 この新しい反応機構は、求核剤の付加・開環・閉環を経由する求核置換 (Nucleophilic Substitution via Addition of Nucleophile, Ring Opening, and Ring Closure) から SN(ANRORC) と呼ばれます。ちなみにカリウムアミドの反応の主反応機構が SN(ANRORC) であることは、下に示すラベル体の実験によって確認されています。

090711_5.bmp

 ・・・いかがでしたでしょうか?ちなみに、この反応機構は最近見つかったものではなく 1978 年に総説が報告されているものです [論文]。論文では他のハロゲンの場合や置換基が入った場合、他のアジン類でどの程度の割合が SN(ANRORC) で進行しているのか、など詳細に報告されています。ご興味ある方は是非一度目を通して見て下さい。

 最後に、reasonable な反応機構は決して一通りしか書けないとは限りませんし、既知の反応機構で進行しているとも限りません。想像力豊かにできるだけ多くの反応機構を考え、また実験的に探る糸口 (今回の場合開環体) を見逃さないように気をつけないといけないですね。・・・自戒の意を込めて。

[論文] "The SN(ANRORC) mechanism: a new mechanism for nucleophilic substitution" Henk C. Van der Plas, Acc. Chem. Res. 1978, 11, 462.

気ままに有機化学 2009年07月12日 | Comment(2) | TrackBack(0) | クイズ
この記事へのコメント
閉環前に出来てる中間体はたぶん厳密にはニトリルじゃなくてケテンイミドなんですよね。じゃないとD標識とBr位置異性体の結果が説明できないようにも思います。些細な点ではありますが。
Posted by cosine at 2009年07月13日 00:15
> cosine さん
鋭いご指摘ありがとうございます!

ただ、そこに関しても考えられるのは一通りではないかと思います。
もちろんご指摘のケテンイミドからの環化も考えられますが、例えば、
1) ケテンイミド経由でニトリルになって環化
2) ニトリルとケテンイミドの平衡が環化よりも十分に早い
3) ニトリル体でホルムアミジン部の異性化の平衡がある
なども考えられるかと思います。
ちなみに論文では 3) が適切な中間体ではないかと書かれています。

そのあたりに気づく人は cosine さんのように自分で矢印を描かれるか、論文を当たるだろうと思い、特にコメントせず論文の絵をそのまま拝借する形にしました。
Posted by 気ままに有機化学(管理人) at 2009年07月13日 22:59
コメントを書く
お名前 (ハンドルネーム可):

メールアドレス (任意):

ホームページアドレス (任意):

コメント:


この記事へのトラックバック