今回はボロン酸の進化した形として、トリフルオロボレート、環状トリオールボレート、MIDA ボロネートの 3 つを簡単に紹介します。いずれも sp2 ホウ素の空軌道をブロックすることで安定性を飛躍的に高めている のが特徴です。
(1) ボロン酸、ボロン酸エステル/boronic acid, boronic ester

(2) トリフルオロボレート/trifluoroborate

[総説] "Potassium Organotrifluoroborates: New Perspectives in Organic Synthesis" Chem. Rev. 2008, 108, 288-315.
[総説] "Organotrifluoroborates: Protected Boronic Acids That Expand the Versatility of the Suzuki Coupling Reaction" Acc. Chem. Res. 2007, 40, 275-286.
(3) 環状トリオールボレート/cyclic triolborate

調製法はトリオールとの加熱脱水によりボロン酸エステルにした後、水酸化カリウムなどの強塩基を加えてさらに脱水することでトリオールボレート塩が多くの場合収率よくできるようです。このトリオールボレートは鈴木-宮浦カップリングでは塩基の添加なく反応が進行し、またアリールブロミドとの反応ではほとんどの場合に配位子の添加なく反応が進行するそうです。また、N-アリール化反応ではホウ酸やトリフルオロボレートよりも反応性が良いことを比較して示しています。現在、和光純薬から十数種類発売されています。
[文献] "Cyclic Triolborates: Air- and Water-Stable Ate Complexes of Organoboronic Acids" Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 928-931.
[総説] "有機環状トリオールボレート塩を用いる遷移金属触媒反応" 和光純薬 pdf
[総説] "トリオールボレート塩:金属触媒反応用に開発されたホウ素試薬" 和光純薬 pdf
(4) MIDA ボロネート/MIDA boronate

すでに Sigma-Aldrich 社から数十種の MIDA ボロネートが販売されており、中には通常のボロン酸では不安定すぎて作れないようなものもあります。面白いことに、論文の Acknowledgment に目を凝らすと、最初は "acknowledge Sigma-Aldrich for a gift of Pd(PPh3)4" だったのが "for gifts of reagents" に変わり、最近では "for funding" にまで変わっており、手を組んでいく様子が手に取るようにわかります。こういう風に論文を楽しむのもまた一興ではないでしょうか。
[総説] "ボロン酸MIDAエステル:反復クロスカップリング用の低反応性ボロン酸誘導体" Sigma-Aldrich pdf
[論文] "A General Solution for Unstable Boronic Acids: Slow-Release Cross-Coupling from Air-Stable MIDA Boronates" J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 6961–6963.
今回はボロン酸の進化した形として、トリフルオロボレート、環状トリオールボレート、MIDA ボロネートの 3 つを簡単に紹介しました。個人的には MIDA ボロネートが頭1つ上かなという印象ですが、これから更にボロン酸は進化するかもしれませんね。
[関連] ボロン酸をタグにした多段階 Phase-Switch 合成 (気ままに有機化学)
J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 758-759
お返事遅くなりました。情報ありがとうございます!
ジアミノナフタレン、未チェックでした。MIDA ボロネートと一部似た使い方ですね。
分液で落とせるのかが若干気になりますが・・・。
acknowledgement のくだり、楽しんでいただけたようで何よりです!MIDAボロネートは、ケミストリーももちろん面白いですが、違った意味でも楽しめる論文でした。笑