◆ tert-ブチルリチウムが発火して女子学生が死亡 (C&EN)
tert-ブチルリチウムをシリンジで吸い取っているときに吹き出して発火し、白衣を着ていなかったためにセーターに引火。事故を起こした 22 歳の女子学生は、全身やけどのために 2 週間後に死亡したそうです。この事故については 化学者のつぶやき で対策とともによくまとまっているので目を通してみてください。
教訓 : 実験時は白衣、安全ゴーグルは基本。発火性の試薬を扱うときは一人にならず手元に消火器を常備すべし。
◆ 残留溶媒からジアジドメタンが生成して爆発 (Org. Process Res. Dev.)
下のスキームの反応で、一段階目の反応後に残留ジクロロメタンを除くために crude を DMF に溶かして濃縮していたが、(あんなに沸点に差があるのに)ジクロロメタンは完全に除去できておらず、二段階目の反応で(ジアジドメタンが生成し)、濃縮しているときに爆発が起こったそうです。アジド化合物の爆発性に関しては、アジ基 1 つあたり 6 炭素(あるいは炭素より重い元素)があれば安定という経験則がありますが、ジアジドメタンはアジ基 1 つあたり 1/2 炭素なので完全にアウトですね。
教訓 : ハロゲン系溶媒とアジ化物イオンは危険な組み合わせ。前の反応からの残留溶媒にも注意すべし。
◆ 廃液処理で硫化水素が発生 (asahi.com)
廃液処理過程で、酸性廃液 350 リットルと硫化ナトリウムや硫化鉄が入ったアルカリ性廃液 40 リットルを混ぜ合わせたことで硫化水素が発生。学内に異臭が漂い、学生や職員 2000 人以上が避難する騒ぎになったそうです。
私の研究室では(廃液同士で中和するのではなく)廃液出す時点で中和しろと教えられました。それからそれだけの硫化物を含む廃液は別途処理にするとか酸性溶液との混合注意と記載すべきだったのかと思います。あと中和するにしてもこのスケールだと発熱もすごいでしょうし、炭酸ナトリウムなんかが入っていても噴き出しそうですし、今回の件がなかったにしてもこのような廃液処理は危険なのではないでしょうか。
教訓 : 廃液の中和処理は安全に行うべし。
普段気を付けているつもりでもこうして実際の例を目の当たりにすると身が引き締まる思いですね。上の 3 件は起こりうる有機化学実験の事故のうちほんの一握りで、実験の際には常に危険と隣り合わせだという認識のもとに気を付けて行うことが大切かと思います。ちなみに私の会社(製薬企業)では各部屋に 有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方、取り扱い注意試薬ラボガイド、教科書にない実験マニュアル よくある失敗・役だつNG集、実験室の笑える?笑えない!事故実例集 が常備されていて、実験の合間にパラパラと目を通せるようにしています。意外なものが危険だったり、意外と面白く読めるので、研究室に1冊は置いておきたいですね。実験化学者の皆様、実験の際はくれぐれも気を付けて。