最短最高収率のタミフル合成

2006年の E.J.Corey と柴崎正勝らの初の化学合成を皮切りに報告が絶えないタミフル合成ですが、林雄二郎らによって 3 段階、総収率 57 %という(私の知る限り)最短最高収率のタミフル合成が達成されたようです [論文]

081224_1.jpg

まだ Publish はされていないようですが、Angewandte の Hot Paper に取り上げられていました(こちら)。そんなわけで本文は読めませんが、Graphical Abstract を見る限り、いつものプロリノール誘導体触媒によるドミノ反応で多置換シクロヘキサン環を一挙に構築後、脱離・Curtius 転位・還元を one-pot 反応×2 で行いタミフルへと導いたようです。お見事!

すでにいくつかのグループから数本の合成が報告されているタミフルですが、工程数と収率でこれを超えるのは至難の業ではないでしょうか。本文が公開されるのが待ち遠しい論文です。

ちなみに著者である 林雄二郎研のホームページ でも早速この論文が掲載されているのですが、"Hot Paper" が "Hot Pepper" として紹介されていました。故意(ネタ)か過失(ミス)かわかりませんが、個人的にはこういうの大好きです。笑

081224_3.jpg

なお、タミフル合成に関しては今月発売の 現代化学 に佐藤健太郎氏と柴崎正勝らのグループによるとてもよくまとまった記事があるのでご覧ください。また、より詳しい総説は柴崎正勝らによる Eur. J. Org. Chem に目を通してみてください。それでは、よいクリスマスを!

[参考] 日本における抗インフルエンザ薬の開発動向としては、第一三共の CS-8958 (ノイラミニダーゼ阻害剤、タミフルと基本は同じメカニズムだけど長時間作用型)が第V相臨床試験に、富山化学の T-705 (RNAポリメラーゼ阻害剤)が第U相臨床試験にあります。これらの薬剤は鳥インフルエンザウイルスに対する作用も非臨床試験で確認されており、一刻も早い承認が望まれています。
[関連] 林 雄二郎 vs ベンジャミン・リスト: アセトアルデヒドの不斉反応 (気ままに有機化学)
[関連] 化学者にぴったりのクリスマスカード (気ままに有機化学)

2009. 01. 05 追記
[論文] "High-Yielding Synthesis of the Anti-Influenza Neuramidase Inhibitor (-)-Oseltamivir by Three One-Pot Operations" Hayashi, Y. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, ASAP


気ままに有機化学 2008年12月24日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 論文 (合成)
この記事へのコメント
むっきー、むっきー。何か悔しいなあ。
「ここと、ここをエノラートで反応させて、タンデムでここを反応させて、さらにタンデムで環がまいて、んで、ジアステレオ選択性が出れば、素晴らしい反応になります。」という、紙の上での妄想化学を実現した感がありますね。
すばらしい。きーきー。
Posted by ぱかぱか at 2008年12月25日 03:33
すごい!の一言しかありませんね。
その発想力、すばらしいです!!
Posted by 榎本てるみち at 2008年12月26日 10:45
>ぱかぱか さん
ジアステレオ選択性がどの程度出ているかはわかりませんが・・・まぁ総収率から察するに結構良さそうな気がします。
確かに悔しいくらい素晴らしい経路ですね。ぱかぱかさんは是非 "one step synthesis of Tamiflu" を目指して頑張ってください!

>榎本てるみち さん
私も同感です!
もう「すごい!」としか言いようがないですよね。
もしこういう素晴らしい論文を他にご存知でしたらコメント欄で教えて下さいねー。
Posted by よっちゃん(管理人) at 2008年12月28日 01:57
コメントを書く
お名前 (ハンドルネーム可):

メールアドレス (任意):

ホームページアドレス (任意):

コメント:


この記事へのトラックバック