昨年末の 新反応発見の方法論 (2) という記事で、Chemspeed というロボットを用いた新規反応のスクリーニングの論文を紹介しましたが、その記事を エーエムアール株式会社の HP でご紹介いただきました。(エーエムアール株式会社は Chemspeed 合成システムを取り扱っている企業です)
Chemspeed 合成システムは、秤量・分注・各種ガスへの置換・撹拌・加熱・冷却・ろ過・乾燥・洗浄・HPLC や GC の分析、などの化学実験操作を自動化してくれるシステムです。新反応発見の方法論 (2) の反応スクリーニングでも、基質の組み合わせが膨大になるものの、Chemspeed を使って多数の実験をこなしています。(より詳細な説明については、YouTube の動画 や エーエムアール株式会社の HP、Chemspeed 社の HP などをご覧ください)
エーエムアール株式会社の方によると、Chemspeed のシステムは、海外では製薬企業・化粧品メーカー・電子製品メーカー・研究機関などで相当数利用されているそうです。国内でもいくつかの企業で使われており、最近では有機化学系の大学研究室でも使われ始めているそうです。装置の組み合わせやカスタマイズなどの自由度が高いそうですので、もしご興味あれば問い合わせてみてください。ご希望の方には、Chemspeed を導入している研究室で実物を見学できることもあるのだとか。
[注意] この記事はエーエムアール株式会社や Chemspeed 社の依頼で書いたものではありませんし、対価を受け取るものでもありません。本ブログの記事が紹介されましたというだけではあまりに手前味噌なので簡単に Chemspeed を紹介したものです。
構造決定にご注意を
先日、会社の先輩に 「天然物の構造修正」 に関する論文と 「NMR の HMBC の注意点」 を教えていただきました (HMBC の解釈間違いによる天然物の構造のミスアサインも多いようです)。転載の許可をいただきましたので、このブログでも紹介させていただきます。
天然物の単離、構造決定はひと昔に比べればだいぶ下火になってきていますが、それでも分析技術の発展でこれまででは捉えきれなかった微量天然物の単離、構造決定も可能になってきて、「こんな構造あるの?」 というような新奇な構造もちょろちょろと報告されています。が、様々なテクニックで決定した構造が間違っていた、という話は未だにあり、というか全く減っていない。このあたり全合成の大御所の K. C. Nicolaou が 2005 年に総説 [論文1] を書いていたりしてたのですが、今回の論文はその続き的な内容です。
この論文 [論文2] には 2005 年以降に訂正された天然物の構造が表になっていて、どんなテクニックで構造決定されて、それがどんなテクニックで訂正されたのかが記載されていて、どんな間違いをしたのかが一目瞭然になっています。これ以上の中身については触れませんが、構造決定の主役となる NMR について気になる記載があったので書きとめておきます。
HMBC では通常、2 または 3 結合の H-C 相関がクロスピークとして観測されるが、しばしば (弱いけど) 4 結合相関が観測される。特にヘテロ芳香環では考慮すべき。
2 または 3 結合の H-C 相関が理論上考えられても観測されない場合がある。通常の HMBC では J = 8 Hz のカップリングを観測するようにパルスプログラムが組まれているので (この値は変更可)、この範囲に入らないものはスペクトル上観測されない、という原理を知っておくべき。
位置異性体や副生成物の構造を各種 NMR スペクトルで決める際には、「希望的観測」 は捨てて必ず可能性のある構造についても検討してみる、スペクトルから得られる情報に矛盾はないか、など心に留めておく必要があると思います。あとケミカルシフトにももう少し気を配る必要があるのでは、と感じています。我々は合成的に構造を確認できるという強みもあるので、スペクトルのみに頼らずに誘導化などの方法も考慮するという手もあります。
ちなみに構造決定の手順についてこちらによく書かれています。ご参考まで。
http://jjj.nengu.jp/
http://polaris.hoshi.ac.jp/kyoshitsu/shouyaku/lycopo/hikagetop.htm
[論文1] "Chasing Molecules That Were Never There: Misassigned Natural Products and the Role of Chemical Synthesis in Modern Structure Elucidation" Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1012.
[論文2] "Survey of marine natural product structure revisions: A synergy of spectroscopy and chemical synthesis" Bioorg. Med. Chem. 2011, 19, 6675.
* * * * *
天然物の単離、構造決定はひと昔に比べればだいぶ下火になってきていますが、それでも分析技術の発展でこれまででは捉えきれなかった微量天然物の単離、構造決定も可能になってきて、「こんな構造あるの?」 というような新奇な構造もちょろちょろと報告されています。が、様々なテクニックで決定した構造が間違っていた、という話は未だにあり、というか全く減っていない。このあたり全合成の大御所の K. C. Nicolaou が 2005 年に総説 [論文1] を書いていたりしてたのですが、今回の論文はその続き的な内容です。
この論文 [論文2] には 2005 年以降に訂正された天然物の構造が表になっていて、どんなテクニックで構造決定されて、それがどんなテクニックで訂正されたのかが記載されていて、どんな間違いをしたのかが一目瞭然になっています。これ以上の中身については触れませんが、構造決定の主役となる NMR について気になる記載があったので書きとめておきます。
HMBC では通常、2 または 3 結合の H-C 相関がクロスピークとして観測されるが、しばしば (弱いけど) 4 結合相関が観測される。特にヘテロ芳香環では考慮すべき。
2 または 3 結合の H-C 相関が理論上考えられても観測されない場合がある。通常の HMBC では J = 8 Hz のカップリングを観測するようにパルスプログラムが組まれているので (この値は変更可)、この範囲に入らないものはスペクトル上観測されない、という原理を知っておくべき。
位置異性体や副生成物の構造を各種 NMR スペクトルで決める際には、「希望的観測」 は捨てて必ず可能性のある構造についても検討してみる、スペクトルから得られる情報に矛盾はないか、など心に留めておく必要があると思います。あとケミカルシフトにももう少し気を配る必要があるのでは、と感じています。我々は合成的に構造を確認できるという強みもあるので、スペクトルのみに頼らずに誘導化などの方法も考慮するという手もあります。
ちなみに構造決定の手順についてこちらによく書かれています。ご参考まで。
http://jjj.nengu.jp/
http://polaris.hoshi.ac.jp/kyoshitsu/shouyaku/lycopo/hikagetop.htm
[論文1] "Chasing Molecules That Were Never There: Misassigned Natural Products and the Role of Chemical Synthesis in Modern Structure Elucidation" Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1012.
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