2011年1月発刊の有機化学関連書籍
◆ 和書 (一般)
・ ヨウ素化合物の機能と応用展開
・ 絶対わかる有機金属化学
・ 知っておきたい有機化合物の働き 電気を通すプラスチックからカップリング反応まで
・ あなたの液クロ正常ですか?
・ 院生・ポスドクのための研究人生サバイバルガイド
・ マンガ おはなし化学史
・ 化学者のための光科学
・ 金属と分子集合―最新技術と応用
・ 商品から学ぶ化学の基礎
◆ 和書 (辞典)
・ 有機化学用語事典
・ ノーベル賞受賞者人物事典 物理学賞・化学賞
・ すっきりわかる!くらしの中の化学物質大辞典
・ 例解化学事典
・ 化学大百科
◆ 洋書 (反応・合成)
・ Iridium Catalysis
・ Catalyzed Carbon-Heteroatom Bond Formation
・ N-heterocyclic Carbenes: From Laboratory Curiosities to Efficient Synthetic Tools
・ Organocatalytic Enantioselective Conjugate Addition Reactions: A Powerful Tool for the Stereocontrolled Synthesis of Complex Molecules
・ Modern Oxidation Methods
・ The Pincer Ligand
・ Enzyme Catalysis in Organic Synthesis: A Comprehensive Handbook
・ Biocatalysis in Polymer Chemistry
・ Conjugated Polymer Synthesis: Methods and Reactions
・ Organic Synthesis Via Examination of Selected Natural Products
◆ 洋書 (その他)
・ Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry
・ Organic Solvents: Properties, Toxicity, and Industrial Effects
・ Basic One- and Two-Dimensional NMR Spectroscopy
・ Computational Chemistry: Introduction to the Theory and Applications of Molecular and Quantum Mechanics
・ Dendrimers
・ Handbook on Carbon Nano Materials: Fundamentals and Applications
・ Carbon Nanotube and Graphene Device Physics
・ Hydrogen Bonding and Transfer in the Excited State
・ Self-Assembled Structures: Properties and Applications in Solution and on Surfaces
蛋白質の「蛋」って何?―川本幸民と化学新書
タンパク質、漢字で書けば蛋白質。蛋白質の 「蛋」 って一体何を意味するのでしょうか?蛋白質以外の言葉で 「蛋」 という漢字をほとんど使わないので、その意味はあまり知られていないのではないでしょうか?
そもそも蛋白という言葉がはじめて使われたのは、江戸時代は幕末の 1861 年、川本幸民 (かわもとこうみん) がドイツの化学書 『化学の学校 (Schule der Chemie)』 のオランダ語版を和訳して著した 『化学新書』 です。当時はまだ化学というものが日本にはなく、蘭学者たちが西洋化学を日本に精力的に導入しはじめた頃の話です。
『化学新書』 ではさらに、多くの新しい化学用語を日本語に移さねばならなかった。「蛋白(タンパク)」 という言葉がはじめて出てくる。これはオランダ語の eiwit の訳で、ei とはタマゴで、wit は白であるので、今なら 「卵白」 と訳されるところであるが、「卵」 は象形文字で男性の性器を表す意味があることを幸民は知っていて、それを嫌ってか、「卵」 の代りに鳥のタマゴを意味する 「蛋」 の字が使われた。蛋白 (タンパク) 体、すなわち今日の蛋白質という日本語はこのようにして生まれた。
[出典] 日本の化学の開拓者たち
つまり蛋白質の 「蛋」 は卵を意味し、蛋白質は卵白質という意味だったのです (中華料理のメニューで蛋を探してみてください)。しかし川本幸民には申し訳ないですが、正直なところ、卵白質の方が意味はわかりやすいですね。なお、wikipedia にも次のようなエピソードが紹介されています。
なお「蛋白質」の「蛋」とは卵のことを指し、卵白(蛋白)がタンパク質を主成分とすることによる。栄養学者の川島四郎が「蛋白質」では分かりにくいとして「卵白質」という語を使用したが、一般的に利用されるにはいたらなかった。
[出典] タンパク質-wikipedia
ちなみに、「化学」 という言葉もこの川本幸民の 『化学新書』 ではじめて日本で使われたもの。それまでは宇田川榕菴がオランダ語の Chemie を音訳 「セイミ」 に 「舎密」 をあてたもの (なのでシャミツではなくセイミと読みます) が使われていましたが、川本幸民が中国の書籍に 「化学」 が使われているのを見て自らの訳書の題名に用いたのです。この他、「有機化学」、「葡萄 (ブドウ) 糖」、「蔗 (ショ) 糖」、「尿素」 などの用語もこの 『化学新書』 で初めて現れたものです。
また、幸民の 『化学新書』 には、それまでの日本になかった概念として分子式、原子説、当量などが現れているのが特徴です。分子式の導入では、現在の C, H, O の元素記号には 「炭」「水」「酸」 の漢字が使われ、例えば酒石酸は 炭四水四酸五 (C4H4O5) と書かれていたようです (現在から見ると係数は間違っています)。原子説については、単亜多面 (単アトム、原子) から 複亜多面 (複アトム、分子) が形成される説明図などが掲載されています。当量に関しては 越九乙華蓮天 (エキュイバレント) などと書かれていたそうです。(ちょっぴりヤンキー風に見えてしまうのは私だけでしょうか、いや、実はヤンキーが幕末風なのかも。笑)
さらに、幸民はオランダ書から 『化学新書』 を訳しただけでなく、そのなかで書かれている内容を実際に試してみて、日本ではじめてビールの製造、マッチの試作、銀板写真の実施を行っています。実は昨年が川本幸民の生誕 200 周年で、彼の生まれた兵庫県三田市が同県伊丹市の小西酒造に日本初のビールの再現を依頼し、幕末のビール復刻版 幸民麦酒 として製造されました。また、昨年 9 月には三田市で 幸民まつり が開催され、幸民麦酒も振る舞われていました。
上で紹介した事柄は主に 日本の化学の開拓者たち を参考にしていますが、幸民については以下のサイト・書籍・動画などでもその功績や人生をうかがい知ることができます。幸民に興味をもたれた方はあわせてどうぞ。
・ 川本幸民-江戸の科学者列伝 (大人の科学.net)
・ 化学をつくった男 川本幸民 生誕200年 (神戸新聞)
・ 幸民ビールの秘密を探る (You Tube)
・ 幸民まつり (You Tube)
・ 蘭学者 川本幸民: 近代の扉を開いた万能科学者の生涯 (Amazon)
・ 蘭学者川本幸民―幕末の進取の息吹と共に (Amazon)
知っておきたい化学の略語
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。・・・若者風に略せば 「あけおめ、ことよろ」 ですね。しかし知らない人が 「あけおめ、ことよろ」 というメールをもらってもピンとこないのではないでしょうか。これは化学用語にも言えることで、初めて見る略語が急に出てくると戸惑ってしまうものです。
柴崎研の 有機化学の略語一覧 (pdf) にまとめられているような試薬名・保護基・官能基の略語のうち、よく出てくるものについては是非とも知っておきたいものです。この記事では、使用頻度は少ないけれど、学会・論文・ウェブ等でときどき見かける化学用語の略語を取り上げてみました。早速ですが、下の 5 つの略語はそれぞれ何を表すものでしょうか?
答えは、コチラ。なぜこのように略すのかについては正確なところはわかりませんが、答えを見れば何となく納得できるのではないでしょうか。こうして一度見ておくと、出てきたときにアタフタせずに済みそうですよね。私が思いついたのは上の 5 つですが、もし他に 「こんなのも知ってるよ」 というようなのがあればコメント欄でお知らせいただけると幸いです。
最後になりましたが、気ままに有機化学からも、あけおめ&ことよろ!笑
[関連1] 有機化学論文のラテン語 (気ままに有機化学)
[関連2] 通じない化学用語 (気ままに有機化学)
[関連3] プラスマイナスエーテル!? (化学者のつぶやき)