読者プレゼントの当選者発表!


数日前の記事 で書籍 クロスカップリング反応―基礎と産業応用 の読者プレゼントを募ったところ、68 名もの方からご応募をいただきました。たくさんのご応募ありがとうございます!応募メールの到着順に 1〜68 と番号を当てて抽選を行ったところ、

当選者は T さんに決定しました!(本名で応募くださったので伏せています)
当選者の方には先ほどメールさせていただきました。
当選者以外の方にはメールしていませんのでご了承ください。

残念ながら読者プレゼントに当たらなかった方々、申し訳ないですが、大学生協や大型書店や Amazon 等で立ち読み・お買い求めいただけたらと思います。また次回、別の書籍などご献本いただけた場合は、読者プレゼントを企画するつもりですので、また奮ってご応募ください。

最後に、ご応募いただいた上にさらに感謝・激励・要望・質問などのコメントをいただいた皆様に感謝申し上げます。多数いただきましたので個々に返事はしていませんが、いただいたコメントは今後のブログ更新のドライビングフォースになること間違いなしです、ありがとうございます。コメントの一部に関しては、以下で簡単にお返事させていただきたいと思います。

この本は不斉クロスカップリングとかsec-アルキルのクロスカップリングは紹介されているのでしょうか。
→ 不斉クロスカップリングやsec-アルキルのクロスカップリングについては、それらを主眼に置いた章は残念ながらありません (全くではありませんが、ほとんど出てきません)。ですので、もしそういった内容に焦点を当てて知りたい場合には、正直この本はあまり向いていないかと思います。

鈴木カップリングや Buchwald の C-O, C-N カップリングなどの良く使う反応において、第一選択となる条件などをブログで取り上げていただきたいと思います。(独断の偏見でかまわないので)
→ 残念ながら私は人に第一選択を提案できるほど知識や経験があるわけではありません。ですので、以前の記事 で紹介した 研究室ですぐに使える 有機合成の定番レシピ や、その後発売された 若手研究者のための有機合成ラボガイド には各反応で第一選択となるような条件や注意点などが書かれていますので、そちらをご参照ください。

門外不出の秘伝の技もあると思いますが,例えば研究室に配属されたばかりの学部 4 年生を対象に,厳しい先輩方には普段なかなか聞けない正しいカラムや再結晶,TLC の方法から,多段階合成の効率的な持ち上げに有効な裏技まで,ぜひお知恵や流派ごとの作法を紹介してください。
→ 門外不出の秘伝の技は私にはありません、笑。しかし私が人に教えれるほどの正しい実験手技を持っているわけではありませんし、このブログではできるだけ書籍では書かれていないようなことを扱っていくつもりです。ですので、申し訳ないのですが、標準的な実験方法については書籍 研究室で役立つ有機実験のナビゲーター 実験ノートのとり方からクロマトグラフィーまで研究室ですぐに使える 有機合成の定番レシピ などをご参照いただけたらと思います。有用だと思われるテクニックなどについては、気付いたときや知ったときには随時ブログに掲載していくつもりです。

最近 Stille カップリングを行い、すず副生成物の除去に困っていました。そうしたところ、こちらの 「有機合成実験の後処理に関する Tips まとめ」 に辿り着き、アセトニトリル/ヘキサン抽出にて無事すずを取り除くことができました。これからも更新楽しみにしています。
→ 具体的に読者様から私のブログが役に立っているという声を聞く機会はあまりなかったので、嬉しく読ませていただきました。ありがとうございます!

今回の読者プレゼントをきっかけに、いつもお世話になっているお礼を一言伝えたいと思い、応募しました。管理者様には、お忙しいとは存じますが、ぜひ長くこのブログを続けていただけたらと思います。どうぞ、向寒の季節、ご自愛ください。
→ この方の文章が傑出して丁寧かつ美しい文章でした、ありがとうございます。もうそれだけでこの方にプレゼントしようかと一瞬思ってしまいましたが、抽選でと書きましたので公平に抽選で選出させていただきました。

自分は大学の工学部化学科 3 年で、化学者を志す者です。このブログは毎日拝見させていただいております。将来は有機合成を専門にしたいと考えており、今回の鈴木先生、根岸先生のノーベル賞受賞は感動のあまり寝付けないほどでした。
→ 読者は大学院生以上の方がほとんどだと思っていたのですが、今回 3 回生の方も数名応募いただきました、ありがとうございます!是非 「感動のあまり寝付けないほど」 のケミストリーを自身の手で発見してください!

今後ともぜひ、真面目な話、不真面目な話など期待しています。
記事紹介から小ネタまで空き時間にちょうどよく、非常にありがたいです。
→ この御二方は私のブログをよくわかってくださってますね。笑。今後も 「不真面目な話」 や 「小ネタ」 も盛り込んで行きたいと思います。笑。

最後に繰り返しになりますが、多数のご応募&コメント、本当にありがとうございました!


気ままに有機化学 2010年11月29日 | Comment(0) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク

日本語で読むクロスカップリングの基礎・産業応用・最新の動向


ノーベル化学賞の発表からすでに一ヶ月以上が経ちましたが、まだまだ熱が冷める様子はありません。最近、Wiley 出版は ホームページ で受賞者の論文を無料公開しましたし、北海道大学では鈴木章先生の業績を紹介する 電子ブック動画 を作成しています。さらに今月号の 化学現代化学 ではそろってノーベル化学賞の特集が組まれています (月刊化学は ホームページ で無料で内容の閲覧ができます)。

こうしてクロスカップリング反応に関する情報が大量にメディアに流れる一方、次のように思っている方も結構多いのではないでしょうか?

 「実はクロスカップリング反応のこと、あまりよくわかってないんだよね」
 「最近のクロスカップリング反応の進展が著しくてフォローできていない」

クロスカップリング反応に特化した本ってあまりないんですよね、特に日本語の本には。そんな中、シーエムシー出版から 『クロスカップリング反応―基礎と産業応用』 という本が昨日出版されました。私は編集者様のご好意で出版前に一冊いただくことができましたのでご紹介したいと思います。この本のいいなと思った点は以下の 4 つ。

 ・ 鈴木章、檜山爲次郎など第一線の研究者の筆によるもので、深く正確に書かれている
 ・ 原稿は 2006 年〜 2010 年に書かれたもので、最新の研究の動向も盛り込まれている
   (鉄触媒での鈴木-宮浦クロスカップリングボロン酸の進化した形 なども)
 ・ リファレンスもしっかり付けられており、気になった文献はすぐに調べることができる
 ・ 日本語で書かれており、しかも安価 (2500 円、234 ページ)

一方で注意点としては、この本一冊でクロスカップリングのすべてが網羅されているわけではないという点です。より網羅的に勉強したい方には Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions が良いかと思いますが、英語で 938 ページあり、2004 年出版なのでそれ以降の進展は書かれていません。ですので、この本は、網羅的ではないものの、最新の研究も含めてクロスカップリングを日本語で勉強したい方には最良の本と言って間違いないと思います。特に下の目次に並んでいる各トピックスに関してはかなり詳しく書かれています。正直のところ、私も知らなかったことがたくさんあり、とても勉強になりました。

第 1 編 基礎編
 鈴木-宮浦クロスカップリングの概要
 有機ボロン酸およびその誘導体合成の動向
 鈴木-宮浦クロスカップリング反応に用いられるホウ素類
 薗頭反応,溝呂木・ヘック反応

第 2 編 産業応用
 鈴木カップリング反応の最近の進歩
 ニッケル触媒鈴木-宮浦反応の開発
 ピリジン環のリチオ化を経るピリジルホウ素化合物の製法とその反応
 (医薬品) Buchwald-Hartwig アミノ化反応
 (中間体) Pd 触媒を用いた実用的合成法 (ヘック反応) の展開
 (有機エレクトロニクス) 二金属反応剤のクロスカップリング反応

第 3 編 クロスカップリングの新時代
 新しいタイプの求核剤・求電子剤
 含フッ素官能基導入法の検討
 マイクロ波合成によるカップリング反応
 フルオラスケミストリーとカップリング反応
 リサイクル型固定化 Pd 触媒の開発
 鉄触媒クロスカップリング反応
 鈴木カップリングを革新するボロン酸誘導体

上のトピックスに興味のある有機化学者の皆さんへ、オススメです。

101122.gif 【読者プレゼント】 今回紹介した書籍を 1 名様にプレゼント!

嬉しいことに今回、出版社様のご好意で無料で一冊 『クロスカップリング反応―基礎と産業応用』 をいただきました。つまり 2500 円分お金が浮いたわけです。その分を読者様にドドーンと還元、1 名様に 『クロスカップリング反応―基礎と産業応用』 をプレゼントします!もちろん私の読み古しではなく、新品をお送りします。応募方法はこちらの メールフォーム にお名前 (本名でもハンドルネームでもOK) とメールアドレスを記入して 「読者プレゼントへの応募」 と書いて送信してください。応募は 1 人 1 口まで。そこは化学者の良心でお願いします。応募の〆切は今週 11/26 (金) の 24 時まで。当選者は抽選で選びたいと思います。

応募にはメールアドレスが必須です (メールアドレスは当選者への連絡と複数応募の防止のためで、その他の目的には使用しません)。また、当選した場合にはプレゼントを送付するためにメールで住所と氏名をうかがいますので、ご了承いただける方のみご応募ください。プレゼントは Amazon から直接送付させていただきます (送付先は日本国内でお願いします)。Amazon に在庫がない場合にはプレゼントの発送に少し時間がかかりますがご容赦ください。以上、ドシドシご応募ください!

気ままに有機化学 2010年11月22日 | Comment(0) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク

スズ化合物除去の 『マイ』 スタンダード : アミノシリカ

化学者のつぶやきさんの スズ化合物除去のニュースタンダード : 炭酸カリウム/シリカゲル という記事で、普通のシリカゲルの代わりに、無水炭酸カリウムを 10wt% 混ぜたシリカゲルを使ってカラムをするだけでスズ化合物を効果的に除去できるという論文が紹介されていました。早速このブログの 有機合成実験の後処理に関する Tips まとめ にも追記で紹介させていただきました。

さて、私自身はスズ化合物の除去には別の方法を使っています。私の方法は 普通のシリカゲルの代わりに、アミノシリカゲルを使ってカラムをするだけです。アミノシリカゲルというのは、下図のように表面にアミノ基を導入して塩基性にしたシリカゲルのことです。アミノシリカゲルを使う長所は多彩な形態 (粉末、充填、TLC、PTLC) で販売されていること、短所は値段が高いこと、不明な点は分離能がどちらがいいのか分からないこと、です。


図は Moritex 社 HP より引用

まず長所ですが、アミノシリカゲルは 「通常の粉末タイプ」 も 「プラスチックのカラムに充填されたタイプ」 も 「TLC プレート」 も 「分取 TLC (preparative TLC, PTLC)」 も売っています。なので、いつも充填されたタイプを使っているという方 (値段が高いので主に企業の方だと思います) にも簡便に使える方法です。また、上の化学者のつぶやきさんの記事には 「展開溶媒も、TLC 検討で見つけた条件がそのまま使える模様。」 と書かれていますが、これはおそらく中性化合物の場合のみではないでしょうか?(論文読めていないので間違いだったら教えてください)。炭酸カリウムで塩基性になったカラムは、おそらく塩基性化合物は早く溶出し、酸性化合物の溶出は遅くなるはずです。少なくともアミノシリカゲルではそのような傾向があります。そのため、アミノシリカの TLC プレートがあるというのは便利で、溶出条件を検討することができます。一方、炭酸カリウム/シリカゲルの TLC プレートは市販されていないので、中性化合物以外の場合に溶出条件の検討が困難になります。同様に、少量の反応の際にアミノシリカは分取 TLC ができるというメリットもあります。

しかしながらアミノシリカゲルは高価だという短所があります。正確な値段は覚えていないのでメーカーに問い合わせて欲しいのですが、通常のシリカの商品に比べて 2〜3 倍くらいの値段がしたように思います。研究費に多少の余裕があってスズの反応をよくやる方は、一度試してみてはいかがでしょうか? (私の大学院時代の先輩で助教をされている方に一度試してもらったことがありますが、なかなか好評でした)

[2010.11.14. 追記]
アミノシリカゲルにはアルデヒドが吸着 (反応) して出てこなくなるという短所もあります。コメント欄でご指摘くださった LJ さん、ありがとうございます!

それから不明な点は、分離能はどちらがいいのかわからないということです。私は上記の理由からこれからもアミノシリカゲル法でスズ化合物を処理するつもりですが、炭酸カリウム/シリカゲル法の方が分離能が高い可能性もあります。興味を持たれた方は是非、どちらの分離能が高いのか、アミノシリカゲル法でどのようなスズ化合物が除去されるのか、調べてみてください。もしかしたら炭酸カリウム/シリカゲル法のように論文にできるかもしれません。もし論文にされる際は私の名前も共著者のどこかに・・・とまでは言いませんが、お知らせいただけると幸いです。(論文にしなくても、やってみて 「良かった」 とか 「こういう欠点がある」 とか気軽に感想聞かせてくださいね)

◆ アミノシリカゲル法のメリットまとめ
・ 粉末タイプも充填タイプも両方とも市販されている
・ アミノシリカの TLC も市販されているため、溶出条件検討が容易に行える
・ アミノシリカの PTLC も市販されているため、少量反応の分取 TLC も行える

◆ アミノシリカゲル法のデメリットまとめ
・ アミノシリカ系商品は値段が高い
・ アルデヒドが吸着 (反応) して出てこなくなる
・ 分離能がどの程度なのか、どのようなスズ化合物が除去されるのか詳細な検討はされていない

[関連1] 有機合成実験の後処理に関する Tips まとめ (気ままに有機化学)
[関連2] アンパンマン反応 (気ままに有機化学)

気ままに有機化学 2010年11月06日 | Comment(2) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク

最近の有機化学関連書籍

Organic Structural Spectroscopy (2nd Edition) Name Reactions for Carbocyclic Ring Formations (Comprehensive Name Reactions) Handbook of Heterocyclic Chemistry, Third Edition Classics in Total Synthesis III: New Targets, Strategies, Methods

ここのところ 「最近発売の有機化学系書籍」 の紹介が滞っていましたので、この 4 ヶ月分をまとめて一覧にしてみました。数が多かったので独断と偏見でジャンル毎に分類して並べてみました。ちなみに、まだ出版されていないけど近日発売の書籍で注目なのは、K. C. Nicolaou らの全合成シリーズの最新刊 Classics in Total Synthesis III: New Targets, Strategies, Methods。来月中旬発売予定で Amazon 予約受付中ですのでクリスマスプレゼントにいかがでしょう?笑

◆ 基礎知識・安全実験
有機合成化学入門 基礎知識をまとめて実践に備える
有機化学―基礎化合物から機能材料まで
研究室に所属したらすぐ読む 安全化学実験ガイド
新人研究者・技術者のための安全のてびき―現場で求められる知識と行動指針

◆ 分析化学・構造解析
有機分子構造とその決定法
有機構造解析
役にたつガスクロ分析
2D NMR-Based Organic Spectroscopy Problems
Organic Structural Spectroscopy (2nd Edition)

◆ 有機金属化学
有機金属化学
N-Heterocyclic Carbenes in Transition Metal Catalysis and Organocatalysis
Basic Organometallic Chemistry: Concepts, Syntheses, and Applications of Transition Metals
Silver in Organic Chemistry
Organometallic Compounds of Low-Coordinate Si, Ge, Sn and Pb: From Phantom Species to Stable Compounds

◆ 反応・全合成
Handbook of Heterocyclic Chemistry, Third Edition
Name Reactions for Carbocyclic Ring Formations
Catalytic Asymmetric Conjugate Reactions
Asymmetric Catalysis on Industrial Scale: Challenges, Approaches and Solutions
Microwave Heating As a Tool for Sustainable Chemistry
Metathesis in Natural Product Synthesis: Strategies, Substrates and Catalysts
Stereoselective Synthesis in Organic Chemistry

◆ 超分子化学・炭素素材・金属有機構造体 (MOF)
Anion Recognition in Supramolecular Chemistry
Molecular Encapsulation: Organic Reactions in Constrained Systems
Chemistry of Nanocarbons
Carbon Nanowalls: Synthesis and Emerging Applications
Metal-Organic Frameworks: Design and Application
Functional Metal-Organic Frameworks: Gas Storage, Separation and Catalysis

◆ 生物有機化学
生体物質の化学―有機化学から生命科学へ
生命現象を理解する分子ツール―イメージングから生体機能解析まで
化学構造と薬理作用―医薬品を化学的に読む
第3版 マクマリー 生物有機化学 有機化学編

◆ 元素関連
世界で一番美しい元素図鑑
げんそじん―元素キャラクターBOOK
いまだから知りたい 元素と周期表の世界

◆ その他
数学いらずの化学熱力学
人工光合成と有機系太陽電池
Organic Chemist's Desk Reference
Chiral Recognition in Separation Methods: Mechanisms and Applications
Organofluorine Chemistry: Structure, Reactivity, And Synth
Conformational Concept For Synthetic Chemist's Use: Principles and in Lab Exploitation
Ionic Liquid Applications: Pharmaceuticals, Therapeutics, and Biotechnology
Physical Organic Chemistry: New Developments

気ままに有機化学 2010年11月04日 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイト・ツール・本