最近気になった化学系サイト・本・動画 2010/4/30

Take care with triethoxysilane
More on the perils of triethoxysilane
 アミドの還元などで用いられるトリエトキシシラン (EtO)3SiH とルイス酸の組み合わせは、燃えやすく毒性の高い気体のシラン SiH4 を生じるので危険。ケイ素上にアルキル基が付いた還元剤に代替することが望ましいという話。論文も出ています。

最近/近日発売の有機化学系の和書
使える!有機合成反応241実践ガイド
有機化学のためのスペクトル解析法―UV、IR、NMR、MSの解説と演習
化学のブレークスルー理論化学編―革新論文からみたこの10年の進歩と未来
わかりやすい化合物命名法
フッ素化学入門〈2010〉基礎と応用の最前線
高分子の合成(上)―ラジカル重合・カチオン重合・アニオン重合
高分子の合成(下)―開環重合・重縮合・配位重合

最近/近日発売の有機化学系の洋書
Catalytic Asymmetric Synthesis
Privileged Chiral Ligands in Asymmetric Catalysis
Functionalised N-Heterocyclic Carbene Complexes
Chiral Amine Synthesis: Methods, Developments and Applications
Chiral Ferrocenes in Asymmetric Catalysis: Synthesis and Applications
Reactive Intermediates: MS Investigations in Solution
Sulfur-Containing Reagents
Carbon Nanotubes and Related Structures: Synthesis, Characterization, Functionalization, and Applications

漢字で元素 (ニコニコ動画)
 

気ままに有機化学 2010年04月30日 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイト・ツール・本

残留溶媒・試薬の NMR データ


以前、各種溶媒の各種重溶媒中の NMR データ という記事で 1997 年の JOC の論文 [論文1] を紹介しました。よく使う溶媒の NMR データがまとまって載っていますので、「これ DMF のピークだっけ?」 とか 「重ベンゼン中で酢エチのピークってどのあたり?」 というときに便利な一枚です。

さて、つい最近 2010 年の Organometallics の論文 [論文2] に残留溶媒の NMR データ集の新バージョンが出ていました。今回の報告では、JOC のものに比べて重溶媒の種類も残留溶媒 (試薬) の種類も大幅に増えています (Organometallics らしく、有機金属の研究室で使うような重溶媒・残留試薬も含まれる形になっています)。NMR で残留溶媒・試薬を確認するときなどに使えますので、印刷して手元に置いておくと便利ですね。

追記 2010/04/30
Supporting information の "1H NMR data by chemical shift in ppm" も有用です。ピークの位置から溶媒や試薬を推測するときにはこちらが便利かと思います。コメント欄で情報くださった鉄さん、ありがとうございます!

[論文1] "NMR Chemical Shifts of Common Laboratory Solvents as Trace Impurities" J. Org. Chem. 1997, 62, 7512.
[論文2] "NMR Chemical Shifts of Trace Impurities: Common Laboratory Solvents, Organics, and Gases in Deuterated Solvents Relevant to the Organometallic Chemist" Organometallics ASAP.

気ままに有機化学 2010年04月21日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 論文 (その他)

有機合成実験の後処理に関する Tips まとめ


料理にもちょっとした工夫やコツがあるように、有機化学の実験にもそういったものがあります。今回は有機合成実験の後処理に関する Tips 10 個と関連サイト 5 個をまとめて紹介します。ちなみに Tips というのはコツ・ノウハウ・工夫・豆知識のことで、トリイソプロピルシリル基のことではありませんので。笑

1) トリフェニルホスフィンオキシドの除去
 Wittig 反応などで生じるトリフェニルホスフィンオキシドは除去は頭痛のタネになることも多いかと思います。目的物が溶ける場合は、ヘキサン/エーテル=4/1〜2/1 に溶かして析出したトリフェニルホスフィンオキシドをろ過で除けます (エーテルは少ない方が除去率が高い)。

[2013/06/25 追記]
TPPOを塩化マグネシウムとの錯体化で除去する (気ままに有機化学)

2) スズ化合物の除去
 Stille カップリングなどで生じるスズの残骸を除くのは案外厄介なものです。もし生成物がアセトニトリルに溶け、エーテル (ヘキサン) に溶けにくいのなら、粗生成物をアセトニトリルに溶かし、エーテル (ヘキサン) で数回洗浄すると、スズ化合物をエーテル (ヘキサン) 相に除去できます。また、2〜5%のトリエチルアミンを溶媒に混ぜたカラムも効果的。フッ化カリウムをシリカに混ぜる方法もありますがトリエチルアミンの方が楽だと思います。ちなみに、分液段階でフッ化カリウム水溶液で洗浄する方法もあり、スズ化合物で分液がエマルションになる場合にフッ化カリウム水溶液にすると分液性が良くなることがあります。

[2010/11/06 追記]
化学者のつぶやき さんで紹介されていましたが、精製のカラムを普通のシリカゲルの代わりに、無水炭酸カリウムを 10wt% 混ぜたシリカゲルを使ってカラムをするだけでもスズの残骸を除去できるようです。私自身は Stille カップリングの後はアミノシリカでカラム精製することでスズを除いています → スズ化合物除去の 『マイ』 スタンダード : アミノシリカ

3) ピリジンの除去
 分液段階:希塩酸や硫酸銅水溶液で水層に落ちます。濃縮段階:エバポレーターでできる限り飛ばし、トルエンで数回共沸させれば除去できます。個人的にはトルエン共沸が好きです。

4) 銅塩の除去
 銅塩を大量に含む反応の後処理には、飽和塩化アンモニウム水溶液 (あるいはアンモニア水) でクエンチしてしばらく回した後に、分液操作でも飽和塩化アンモニウム水溶液 (あるいはアンモニア水) で数回洗浄するとスムーズ。銅とアンモニアの錯形成を利用した方法。チタン塩も同様の方法で除去できるようです。

5) ジメチルホルムアミドの除去
 DMF は分液で水層に落とすか減圧下の加熱で飛ばすことが多いと思います。分液で水層に落とす場合、酢酸エチルだけよりも酢酸エチル/ヘキサンや酢酸エチル/トルエンの方が分液性が上がります。他の方法として、目的物が固体で水に溶けにくい場合は、過剰量の水を加えて目的物を析出させ、それをろ取したあとで分液するという方法もあります。

6) 目的物が水に溶けて抽出できない
 クロロホルム(ジクロロメタン)/イソプロパノール(メタノール)=10/1〜3/1 で抽出、あるいは THF で抽出、あるいは目的物の溶けた水層をそのまま濃縮。

7) 分液で濃い色が付いて界面が見えない
 私の第一選択は懐中電灯を当てること。有機層と水層の光の透過性の違いで界面が見えることが多いです。また、氷や NMR チューブキャップを入れると界面に浮くそうです (後者は Stoltz 研情報) 。

8) LAH の後処理
 これは有名なので LAH 還元をしたことがない方にも頭の片隅に置いてほしい後処理。詳細は 水素化アルミニウムリチウム-Wikipedia の 「反応後の処理」 を参照。

9) ラネーニッケルの後処理
 ラネーニッケルは磁石にくっつく性質があります。なので反応後、ラネーニッケルを磁石でナスコルの底に吸引させておいて溶媒で洗い流すと便利!

10) 水銀をこぼしたときは
 水銀マノメータや水銀温度計をうっかり破壊してしまった、そんな時。液体のまま回収するのは大変ですが、ドライアイスで固めて集めると簡単!

最後に、この記事は以下のサイト・本を参考にさせていただいています。リンク先には今回紹介した Tips 以外のものも載っていますので是非一度目を通してみてください。また、他に有用な Tips やサイト・本などをご存知の方はコメント欄でお知らせいただけると幸いです。

Workup Formulas for Specific Reagents (Not Voodoo)
Work-Up (ChemKnowHow.com)
天然物談話会 夜ゼミレジュメ 2000年2001年 (菅敏幸教授)
ほろ酔い化学者のブログ
若き有機合成化学者の奮闘記
研究室ですぐに使える 有機合成の定番レシピ (Amazon)

[2013/06/25 追記]
反応の後処理 (実験テクニックのまとめ作ろうぜ@化学板 Wiki)

気ままに有機化学 2010年04月17日 | Comment(6) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク

化合物クイズ 3 の解答例

問題はこちら。

Q: 「不斉炭素や不斉窒素など全ての元素の不斉中心」 「軸不斉」 「面不斉」 「らせん不斉」 を含まない光学活性有機化合物を考えてください。合成可能かどうかも、とりあえずここでは問わないことにします。
[問題] 化合物クイズ 2 の解答例 + 化合物クイズ 3

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気ままに有機化学 2010年04月10日 | Comment(0) | TrackBack(0) | クイズ

準安定イリドを用いた Wittig 型反応の E/Z 制御

Wittig 反応はアルケンを合成する有用な反応の 1 つです。一般に、不安定イリド (R2 = alkyl) では Z-アルケンが、安定イリド (R2 = alkoxycarbonyl, acyl, cyano) では E-アルケンが優先することが知られていますが、準安定イリド (R2 = aryl, vinyl) では E/Z の混合物として得られることがわかっています。


準安定イリドの E/Z 制御に向けて、リン原子上の置換基の検討が種々なされてきましたが、実用的なレベルの方法論の開発には至っていませんでした。

最近 JACS に掲載された論文 [論文1] では、発想を変えてイリド側ではなくアルデヒド側をチューニングすることで E/Z 選択性の制御に成功しました。すなわち、アルデヒドをイミンへと変換しイミン上の置換基を調節するという手法です。イミンの反応性を上げる目的と C-N 結合切断を加速する目的で、イミン上の置換基には電子求引性のスルホニル基を検討したそうです (スルホニルイミンは比較的安定で合成も容易な点もアピールされています)。種々のスルホニル基を検討した結果、トシル基がほぼ完全な Z 選択性を示しノルマルヘキサデカンスルホルニル基はほぼ完全な E 選択性を示すことを見出だしました。


立体選択性に対する考察がほとんどないのが残念ですが、スルホニルイミンの種類を変えるだけでほぼ完全に E/Z 選択性が制御できるというのは面白いですね。

Wittig 反応は今から 50 年以上前、1954 年に発表された古典的な反応の 1 つです。それから 55 年経った昨年 2009 年には触媒量のリン源を用いた触媒的 Wittig 反応が報告されましたし [論文2]、今年 2010 年になってスルホニルイミンを用いた E/Z 制御法が見出されました。人名反応のようなよく研究された反応でも、まだまだブレークスルーの余地はたくさんあるのかもしれませんね。

おまけ: 安藤香織先生の Z-選択的 Horner-Emmons 反応もずいぶん時間が経ってから発見されたブレークスルーの 1 つです (1958 年 → 1997 年)。安藤法の開発秘話に関してはご本人様が TCI メール に書かれていますので是非一度ご覧ください。論文ではうかがい知れないことが書いてあって面白いです。

[論文1] "A Highly Tunable Stereoselective Olefination of Semistabilized Triphenylphosphonium Ylides with N-Sulfonyl Imines" J. Am. Chem. Soc. ASAP.
[論文2] "Recycling the Waste: The Development of a Catalytic Wittig Reaction" Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6836.
[関連1] 56年目の革命・触媒的Wittig反応 (有機化学美術館・分館)
[関連2] Catalytic Wittig Reaction (企業の研究員というお仕事)

気ままに有機化学 2010年04月01日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 論文 (反応)