DNA折り紙 (DNA origami) の作り方の動画・論文

実は DNA 折り紙 (DNA origami) には 「折り紙でできたもの」 と 「DNA でできたもの」 の 2 種類があります。

1 つ目の 「折り紙でできた DNA 折り紙」 は折り紙で作った二重らせん。

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ちなみにこの DNA 折り紙、DNA の二重らせん構造を発見したワトソンとクリックの 1953 年の Nature の論文 で作ってみました。笑。左半分の溝にワトソンとクリックが論文中に描いた二重らせんが、右半分のらせんの縁に塩基の A と C の文字が見えるかと思います。ちなみに DNA のほとんどが右巻きであることを受けて折り紙も右巻きにし、大きな溝 (主溝、major groove) と小さな溝 (副溝、minor groove) も再現してみました。

気になる作り方ですが、ちょうど You Tube に DNA 折り紙の作り方の動画があったのでこちらをどうぞ。作り上げたときには感動すること間違いなし!


はざまの庵 さんには多数の画像を用いた丁寧な作り方の説明があります

さて、2 つ目の 「DNA でできた DNA 折り紙」 ですが、これは長い一本鎖 DNA にオリゴ DNA を二重鎖形成させて折り曲げ、高次構造を制御する技術です。この技術にかかれば DNA でスマイルマークも作れちゃうんです!これにはワトソンとクリックもビックリですね!(右下図は DNA の折りたたまれ方を示したもの)

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この成果は 2006 年の nature の論文 に掲載されたもので、著者らはこの技術を "DNA origami" と呼んでいます。他にも星マークや幾何学模様など様々な "origami" を折り上げ、nature の表紙を飾ったほどのインパクトでした。"DNA origami" の詳しい作り方は論文を参照あれ!これはさすがに誰も作らないでしょうけど。笑

以上、2 種類の DNA 折り紙でした。どちらも折り紙つきの素晴らしい技術ですよね!

[関連] 折り紙フラーレンの作り方の動画 (気ままに有機化学)
[関連] らせんを折ろう (Amazon)
[関連] 折り紙で広がる化学の世界 (Amazon)

気ままに有機化学 2009年04月27日 | Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 (その他)

限りなく有機化学的な数学の問題

ある対称ジカルボン酸から非対称ジアミドを作ろうと思ったときに、ふと思いついた問題です。エバポレーターを回してる間なんかに考えてみてください。

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 化合物 1 に充分量の塩基存在下でモルホリンを加えることを考える。化合物 1 はモルホリンと反応して化合物 2 となり、2 がさらにモルホリンと反応すると 3 になる。
 青で示した 3 つの酸クロリドの反応性が全て等しいとし、均一系の反応で副反応はなく、反応時間は充分にあるものとする。(また、拡散速度は反応速度に比べて充分に大きいものとする。)
 このとき化合物 2 の収率を最大にするためにはモルホリンを何当量加えればよいか?またそのときの理論上の収率はいくらか?

うちの研究所の数人に聞いてみましたが、きちんと数学で答えを出せた人は 1 人でした。面白かったのはエクセルの表計算でシミュレーションして答えを出した人もいたこと。答えは合ってたのですが、その解法は想定外でした。できるだけ数学で解いて下さいね。

09.06.19. 追記
[解答] 限りなく有機化学的な数学の問題の解答 (気ままに有機化学)

気ままに有機化学 2009年04月23日 | Comment(11) | TrackBack(0) | クイズ

京都・哲学の道にフラーレンあり

先日京都の哲学の道に花見に行ったところ、桜とは一味違う美しさを放つものを見つけました。最も対称性の高い分子、フラーレンです。

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水素内包フラーレンや金属内包フラーレンなど、いくつか内包フラーレンを見たことはありますが、子供内包フラーレンは初めてです。これにヒントを得てナノキッド内包フラーレンを誰か合成してみませんか?大きさ的に無理でも責任は取らないけど・・・。

桜はもう終わりですが、哲学の道は 5 月下旬〜 6 月上旬は蛍が見れますし、ただ散歩するにも適した場所です。関西在住の有機化学者の方は一度見に行ってみてはいかがでしょうか?フラーレンの場所は哲学の道の南末端、熊野若王子神社付近の小さな公園内。哲学の道を歩いていれば自然と視界に入ってくるはずです。

[関連] 折り紙フラーレンの作り方の動画 (気ままに有機化学)
[関連] 身長 2 nm の子供−ナノキッド (気ままに有機化学)

気ままに有機化学 2009年04月17日 | Comment(0) | TrackBack(0) | コーヒーブレイク

歴史の中のフェノール誘導体

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時は 19 世紀半ば、産業革命によって栄華を極めるイギリス。その輝かしい繁栄の一方で、作業中の事故による怪我で多くの人が命を落としました。なぜなら当時は消毒技術がなく、仮に手術が成功しても傷口から細菌感染して死亡するケースが多かったためです。

イギリス人外科医のジョゼフ・リスター博士は、このような背景から消毒薬の研究に取り組み出しました。そして、1865 年にフェノールを消毒薬とした外科手術を初めて行い、大成功を収めました。この消毒法の開発により、外科手術による死亡率が 50 %から 15 %に激減したそうです。(この功績によりリスターは消毒法の父として有名になり、口内洗浄液 「リステリン」 は彼に敬意を表してつけられた名前です)

こうして多くの人の命を救ったフェノールですが、少し構造を変えたピクリン酸(トリニトロフェノール)は皮肉なことに多くの人命を奪う爆薬として使われました。

20 世紀初頭、第一次世界大戦のことです。フェノールが爆発性のピクリン酸に変換されることに気づいたドイツ軍は世界からフェノールを買い占める作戦を決行します。当時フェノールの生産はイギリスに集中していましたが、ドイツ軍はアメリカが独自に製造法を開発しドイツの敵国の手に渡るのを恐れました。そこでドイツ人化学者のヒューゴ・シュヴァイツァーにこれを阻止するように命令します。

時を同じくして天才発明家のトーマス・エジソン。蓄音機とレコード盤を発明し、これを市場に売り出そうとしていました。レコード盤はフェノール樹脂でできていましたが、その原料であるフェノールが足りない。そこでエジソンは 1915 年、自分でフェノールの大量製造法を発明してしまいます。やがてエジソンはレコード盤に使用するよりも大量のフェノールを生産するようになります。

そこで焦ったのがシュヴァイツァー。このままではドイツの敵国に爆薬の原料であるフェノールを売られかねない。第一次世界大戦の最中、一旦売られればそれこそ爆発的に売れるに違いない。そうこう考えているうちに、化学の知識のあったシュヴァイツァーは名案を思い付きます。アスピリンです。

フェノールはアスピリン(アセチルサリチル酸)の製造原料でもありますが、そのフェノールが不足していました。そこで、余ったフェノールはアスピリン製造会社のバイエル社に売ることで社会貢献できるとエジソンに勧めたのです。結局エジソンはバイエル社と契約してしまいます。シュヴァイツァーはアスピリンによって頭痛のタネを取り除くことができたのです。

これにより、シュヴァイツァー・エジソン・バイエル社は互いに利害が一致した・・・ように見えましたが、後にドイツ軍の思惑が明らかになるとエジソンはアメリカ軍にフェノールを売ることになります。・・・それにしてもフェノール誘導体を巡ってこんなに歴史が絡み合っているというのは何とも面白いですね。

[参考] シュワルツ博士の「化学はこんなに面白い」

気ままに有機化学 2009年04月13日 | Comment(0) | TrackBack(1) | コーヒーブレイク

Baran のエレガントな合成とレドックスエコノミー

数学の世界では簡潔で美しい証明を 「エレガントな証明」 と賞賛し、長ったらしく不格好な証明を 「エレファントな証明」 とからかうのだそうです。これを有機化学の世界に当てはめると、工程数が短く骨格構築が美しい合成を 「エレガントな合成」、工程数が長く官能基変換ばかりの不格好な合成を 「エレファントな合成」 と呼ぶのでしょうか。笑

さて、「エレガントな合成」 と聞いて思い浮かぶ有機化学者の一人に Phil S. Baran が挙げられるかと思います。彼の全合成は本当に短工程で、ときに 「そんな反応どっから思いつくの??」 と不思議に思うような反応も散見されます。そんな彼の合成を支えるのは、膨大な知識とアイデアはもちろんのこと、全合成に対する思想があるように思います。

それは柴崎正勝研のセミナー資料の Baran's 8 rules から窺い知ることができます。
[資料] "A Key Person: Phil S. Baran" (pdf)

Baran's 8 rules (太字は私が勝手に付けた)
(1) redox reactions that do not form C-C bonds should be minimized
(2) the percentage of C-C bond forming events within the total number of steps in a synthesis should be maximized
(3) disconnections should be made to maximize convergency
(4) the overall oxidation level of intermediates should linearly escalate during assembly of the molecular framework (except in cases where there is strategic benefit such as an asymmetric reduction)
(5) where possible, cascade (tandem) reactions should be designed and incorporated to elicit maximum structural change per step
(6) the innate reactivity of functional groups should be exploided so as to reduce the number of (or perhaps even eliminate) protecting groups
(7) effort should be spent on the invention of new methodology of facilitate the aforementioned criteria and to uncover new aspects of chemical reactivity
(8) if the target molecule is of natural origin, biomimetic pathways (either known or proposed) should be incorporated to the extent that they aid the above considerations

この 8 つのルールを頭に置いて今一度 Baran の全合成を見直すと、これらが如何に彼の全合成を魅力的にしているかがよく理解できるかと思います。

しかしながら 「言うは易し、行うは難し」 という先人の箴言通り、漠然とした概念は分かっていてもそれを具体的に実現するまでには大きな隔たりがあります。ところで Baran の 8 つのルールのうち実に 2 つもが酸化還元反応に言及したものであり((1) と (4))、彼が如何に酸化還元反応に気を配っているかが窺えます。

そんな中、最近 Baran の酸化還元反応に対するコンセプトについて、より具体的な反応例や合成例を盛り込んだレビューが Angewandte 誌に報告されていました。
[論文] "Redox Economy in Organic Synthesis" ACIEE, 2009, Early View

ごく簡単に言えば骨格構築や不斉点の導入に関与しないような酸化還元反応(レドックス反応)は減らそうというレドックスエコノミーについてですが、具体的な反応例、合成例、コンセプト、レドックスエコノミーを最大化するための戦略などについて詳細に書かれており、とても勉強になります。特に全合成を研究されている方には一読をお勧めします。

「アトムエコノミー」「ステップエコノミー」「レドックスエコノミー」 の全てが最大化された合成が 「エレガントな合成」 の背景にあるものであり、21 世紀の全合成のあるべき姿の 1 つかもしれませんね。

09.06.18.追記
Nature Chemistry に 「保護基フリー」 の合成に関する Baran らのレビューが出ました。
[論文] "Protecting-group-free synthesis as an opportunity for invention" Nature Chemistry, 2009, 1, 193.

気ままに有機化学 2009年04月04日 | Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 (合成)