最近気になった化学系サイト・本

チョコレート・ケミストリー (有機化学美術館)
バレンタイン化学ネタ @。約一年前の記事で、チョコレートに含まれるフェニルエチルアミンとテオブロミンについて解説。「恋愛仕様・ケミカルバレンタインチョコ」 は笑えます。もし発売されたら買っちゃいます!笑

チョコレートと結晶 (Doubletのちょっとピンボケ)
バレンタイン化学ネタ A。今年の記事で、結晶学的観点から市販のチョコレートがいかに素晴らしいものであるかを解説。「手作りチョコとは、愛情を混和させるがゆえに、技術者の開発と品質管理の苦労をすべてドブに捨てたもの。愛とはなんて罪深いものなのでしょう。」 は含蓄深い名言。噴き出して笑いました。

第三の炭素結晶証明 東北大研究グループ、工業向け合成着手 (河北新報)
「新結晶は、ダイヤモンドとグラファイトの中間的な性質を持つ。グラファイト同様、一つの炭素原子に対し三つの炭素原子が対称的に結合。自由電子を1個持つためグラファイトのように電流を通す。」 だそうです。元文献は こちら だと思いますが、見れてません。どうやって合成するんでしょ??

オロナミンCはブラックライトを当てると光る (ある研究室HP管理人のぼやき-blog)
ずいぶん昔のネタですが、ふと思い出したのでご紹介まで。TLC に飽きたら色んな栄養ドリンクに UV ランプを当てて見よう!教授に見つからないようにこっそりとね。

最近/近日発売の有機化学系の本
 ・ 最新有機合成法 設計と戦略
 ・ よくある質問 NMRスペクトルの読み方
 ・ Classics in Stereoselective Synthesis
 ・ Practical Microwave Synthesis for Organic Chemists
 ・ Iridium Complexes in Organic Synthesis
 ・ Solvent-free Organic Synthesis

気ままに有機化学 2009年02月18日 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイト・ツール・本

最近起こった有機化学系の事故 3 件

日々の実験に追われていると忘れがちになりますが、有機化学実験は命を落とす可能性があるくらい危険な場合もあるものです。そこで今回、ごく最近起こった有機化学系の事故を 3 件紹介します。

tert-ブチルリチウムが発火して女子学生が死亡 (C&EN)

tert-ブチルリチウムをシリンジで吸い取っているときに吹き出して発火し、白衣を着ていなかったためにセーターに引火。事故を起こした 22 歳の女子学生は、全身やけどのために 2 週間後に死亡したそうです。この事故については 化学者のつぶやき で対策とともによくまとまっているので目を通してみてください。

教訓 : 実験時は白衣、安全ゴーグルは基本。発火性の試薬を扱うときは一人にならず手元に消火器を常備すべし。

残留溶媒からジアジドメタンが生成して爆発 (Org. Process Res. Dev.)

下のスキームの反応で、一段階目の反応後に残留ジクロロメタンを除くために crude を DMF に溶かして濃縮していたが、(あんなに沸点に差があるのに)ジクロロメタンは完全に除去できておらず、二段階目の反応で(ジアジドメタンが生成し)、濃縮しているときに爆発が起こったそうです。アジド化合物の爆発性に関しては、アジ基 1 つあたり 6 炭素(あるいは炭素より重い元素)があれば安定という経験則がありますが、ジアジドメタンはアジ基 1 つあたり 1/2 炭素なので完全にアウトですね。

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教訓 : ハロゲン系溶媒とアジ化物イオンは危険な組み合わせ。前の反応からの残留溶媒にも注意すべし。

廃液処理で硫化水素が発生 (asahi.com)

廃液処理過程で、酸性廃液 350 リットルと硫化ナトリウムや硫化鉄が入ったアルカリ性廃液 40 リットルを混ぜ合わせたことで硫化水素が発生。学内に異臭が漂い、学生や職員 2000 人以上が避難する騒ぎになったそうです。

私の研究室では(廃液同士で中和するのではなく)廃液出す時点で中和しろと教えられました。それからそれだけの硫化物を含む廃液は別途処理にするとか酸性溶液との混合注意と記載すべきだったのかと思います。あと中和するにしてもこのスケールだと発熱もすごいでしょうし、炭酸ナトリウムなんかが入っていても噴き出しそうですし、今回の件がなかったにしてもこのような廃液処理は危険なのではないでしょうか。

教訓 : 廃液の中和処理は安全に行うべし。

普段気を付けているつもりでもこうして実際の例を目の当たりにすると身が引き締まる思いですね。上の 3 件は起こりうる有機化学実験の事故のうちほんの一握りで、実験の際には常に危険と隣り合わせだという認識のもとに気を付けて行うことが大切かと思います。ちなみに私の会社(製薬企業)では各部屋に 有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方取り扱い注意試薬ラボガイド教科書にない実験マニュアル よくある失敗・役だつNG集実験室の笑える?笑えない!事故実例集 が常備されていて、実験の合間にパラパラと目を通せるようにしています。意外なものが危険だったり、意外と面白く読めるので、研究室に1冊は置いておきたいですね。実験化学者の皆様、実験の際はくれぐれも気を付けて。

気ままに有機化学 2009年02月14日 | Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース

『ねこ耳少女の量子論』 と関連化学書

ねこ耳少女の量子論~萌える最新物理学~

先日紹介した 萌える元素周期萌える元素周期っぽい動画 に代表されるように科学にも萌えが浸透してきましたね。ところで今日、大きい本屋をぶらぶらしていたら科学書コーナーにも関わらず平積みされている漫画がありました。ねこ耳少女の量子論〜萌える最新物理学〜 です (本日発売)。元素周期 萌えて覚える化学の基本 と同じ PHP 研究所の出版で、第一著者には物理本で有名な竹内薫が挙がっています。この本のすごいところは 206 ページほとんど漫画なところ。そして税込 500 円という価格です。ストーリーを引用すると、

失恋の痛手が癒えぬ少年、勇希(ゆうき)くんは、量子のことばかりを話す不思議な美少女、あいりちゃんと出会う。しかし、いきなり読者だけに知らされる衝撃的な事実……。なんと、彼女の耳は猫の耳だった! 何も知らない勇希は、ふつうの「量子論に詳しい女の子」として、あいりに夢中になっていく……。日を追うごとに思春期特有の妄想がエスカレートしていく勇希と、あいりの関係のゆくえは!? そして何より、あいりの正体はいったい!?

10 分ほどで立ち読みできてしまうくらい読みやすくわかりやすい本です。正直これだけで量子論を勉強はできないと思いますが、量子現象のイメージをつかむための副読本、量子論を少し知ってる上で楽しむエンターテイメント本としては良書だと思います。(ただし、内容も 10 分程度で読めるだけのコンテンツです。ボーアの量子条件やハイゼンベルクの不確定性原理、パウリの排他原理も出てこなかったような・・・。シュレディンガー方程式は出てきますが 「天気予報みたいなもの」 だそうです)。賛否がわかれそうな本ですが、個人的にはこういうの好きです。本屋で見かけたら是非立ち読みしてみてください。

そういえば数少ない化学漫画の1つ マンガ 化学式に強くなる も今思えば萌えっぽい話ですね (ユーモラスでちょっぴりセクシーな高校生の幸ちゃんが、友人の由子ちゃんのオタクなお兄さんに化学を教えてもらうという設定)。科学漫画は萌えに走る傾向があるのでしょうか?笑。

最後に、個人的にオススメな量子論関係の本を 3 冊ほど紹介。まずは なっとくする量子化学。量子化学の入門書の中で一番好きな本です。勉強になる上 以前 紹介した Chemical Joke もコラムで組み入れられていて楽しめる工夫もされています。そして有機化学者にオススメなのは フロンティア軌道法入門―有機化学への応用。1978 年から売れ続けている古典的良著。私も学生のときにこれを勉強しました (理解しているかは別の話ですが。笑)。あと絶版ですが 10歳からの量子論 には、どういった物理学的・社会的・人的背景から量子論が生まれてきたか、とても面白く活き活きと描かれています。著者の都筑卓司は物理学者ですが、文才にも秀でているように思います (彼の著書は何冊も読んでいますが、どれも面白い)。私も面白い化学の話を書けるように精進せねば。

気ままに有機化学 2009年02月07日 | Comment(4) | TrackBack(0) | サイト・ツール・本

ChemPort、一部更新しました。

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私が管理しているもう1つの有機化学系サイト ChemPort を一部更新しました。更新情報は以下の通り。(ChemPort は有機化学ブログの最新記事の自動表示と有機化学系リンクを掲載したサイトです)

[追加] 『研究室(セミナー資料公開)』 の欄に Peter Wipf を追加しました。2003 年から 2009 年まで多数のセミナー資料が公開されています。勉強や自分のセミナーの参考なんかにどうぞ!

[追加] 『有機便利リンク』 の欄に A-Value 2Hammett σ (pdf)、溶媒の物性一覧乾燥剤の特徴一覧Essentials of Heterocyclic chemistry 1, 2, 3, 4 (ChemPort 内では Heterocyclic と略した) を追加しました。Heterocyclic は Phil. S. Baran の 講義資料 で見つけたものですが、よくまとまってます。ちなみに Baran は先日まで Scripps 研究所の Associate Professor でしたが、2008 年 6 月付けで同研究所の Professor に昇格しています!彼は 1977 年生まれなので本当にすごいとしか言いようがありません。

[異動] 世界の化学者データベース を 『有機化学ブログ』 欄から 『有機化学サイト』欄 へ異動しました。これはブログというよりはインデックス的なサイトとしての性質の方が強いと判断したものです。戻してほしい等のご意見があればコメント欄にお願いします。

[拡張] 『有機化学ブログの最新記事』 欄の表示数を 16 件から 18 件に増やしました。これにより、より多くの最新記事が一覧表示で見ることができるようになりました。

[連絡] もし他に掲載して欲しいサイトがある場合、その他ご意見ご感想等などございましたらコメント欄にお願いします。

気ままに有機化学 2009年02月06日 | Comment(2) | TrackBack(0) | ニュース

触媒は思わぬところに; 論文3報

今回は私が 「こんなところに触媒が!?」 と思った論文を 3 つほど紹介します。

(1) Transition-Metal Free Suzuki Coupling

2003 年に遷移金属を使わない鈴木カップリング反応が Nicholas E. Leadbeater らによって報告されました [論文1]。驚くべきことに、Pd を加えることなく、炭酸ナトリウム、テトラブチルアンモニウムブロマイド、水存在下、マイクロウェーブで加熱するだけで収率よくビアリールが生成するというのです。しかも鈴木カップリングを触媒する Pd、Ni、Pt、Cu、Ru が系中に含まれるか計器を用いて検査しても検出されなかったというのです。

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「これはすごい反応だ!」「どういうメカニズムだ?」 と思われた方も多いかと思いますが、これには後日談があって、後に同グループが市販の炭酸カリウムに計器の検出限界以下だった 50ppb (ppm ではなく ppb) の Pd が含まれていたこと、そしてこの極微量の Pd が反応を触媒していることを明らかにしたのです [論文2]。マジックと同じで種を明かせば何てことないかもしれませんが、この反応の場合マジックではなく種のすごさ、つまり Pd がもつ驚異的な触媒活性の強さに舌を巻かずにはいられないのではないでしょうか。

(2) Hydroamination and Hydroalkoxylation

次は触媒本体が実は違ったという話です。ヒドロアミノ化やヒロドアルコキシ化は Au、Ag、Cu、Ru、Pd、Pt などの金属トリフラートによって触媒されることが知られていましたが、2006 年に John F. Hartwig らは真の触媒は金属錯体ではなく系中で遊離したトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)だと発表しました [論文3]

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実際、1mol% の TfOH で反応は進行し、また上図に示すように反応選択性も TfOH と金属錯体で同じであったというのです(TfOH 触媒ではカルボカチオン中間体の安定性から多置換アルケンが反応し、金属錯体触媒では立体的に有利な小置換アルケンも同時に反応すると考えられる)。

ちなみにこれまで何故気づかれなかったのかというと、今までの対照実験では 10〜15mol% の TfOH を使っていたそうですがこの量では生成物が分解して収率が低下するそうです。つまり 1mol% という少ない触媒量が鍵だったようです。大は小を兼ねるとはいいますが、触媒は多ければいいってものではないですね。(この論文に連続して類似点のある内容が Chuan He らによって報告されているので興味ある方はどうぞ [論文4]

(3) LDA-Mediated Ortholithiation

NMR や反応速度論を利用した Li 種の構造や反応機構の推定というユニークな研究で JACS を連発しまくる David B. Collum。そんな彼らは 2008 年に LDA を介したオルトリチオ化反応において自己触媒作用があることを報告しています [論文5]

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LDA (単量体であれ二量体であれ)と基質の二分子反応だとすると実験で得られた反応速度(1次消失) と一致しないことに着目し、NMR などから上図に含まれる活性種を推定、種々の条件での反応速度の変化(分子種の濃度変化)から反応機構を推察した結果、アリールリチウム種と LDA の混合二量体による自己触媒作用を見出したようです。

Li 種の反応速度論からの反応機構の推定というのは彼らほど本格的にやっているグループは私は他に知りませんが、とても興味深い手法だと思います。(Collum Group Website ; 現在 7 人の院生と 2 人のポスドクで、2008 年 は JACS が 6 報で JOC が 2 報)

今回は思わぬところに触媒があったり思わぬものが触媒として働く例をいくつか紹介しました。触媒反応をやっていてもそれが真の触媒種なのかどうか、触媒反応でなくても何か触媒として働いているのではないかと考えることも大切かもしれませんね。

[論文1] "Transition-Metal-Free Suzuki-Type Coupling Reactions" Nicholas E. Leadbeater, Dr. Maria Marco, Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 1407.
[論文2] "A Reassessment of the Transition-Metal Free Suzuki-Type Coupling Methodology" Nicholas E. Leadbeater et al. J. Org. Chem. 2005, 70, 161.
[論文3] "Hydroamination and Hydroalkoxylation Catalyzed by Triflic Acid. Parallels to Reactions Initiated with Metal Triflates" J. F. Hartwig et al. Org. Lett. 2006, 8, 4179.
[論文4] "Brønsted Acid Catalyzed Addition of Phenols, Carboxylic Acids, and Tosylamides to Simple Olefins" C. He et al. Org. Lett. 2006, 8, 4175.
[論文5] "Autocatalysis in Lithium Diisopropylamide-Mediated Ortholithiations" D. B. Collum et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 18008.

気ままに有機化学 2009年02月01日 | Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 (その他)