最短最高収率のタミフル合成

2006年の E.J.Corey と柴崎正勝らの初の化学合成を皮切りに報告が絶えないタミフル合成ですが、林雄二郎らによって 3 段階、総収率 57 %という(私の知る限り)最短最高収率のタミフル合成が達成されたようです [論文]

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まだ Publish はされていないようですが、Angewandte の Hot Paper に取り上げられていました(こちら)。そんなわけで本文は読めませんが、Graphical Abstract を見る限り、いつものプロリノール誘導体触媒によるドミノ反応で多置換シクロヘキサン環を一挙に構築後、脱離・Curtius 転位・還元を one-pot 反応×2 で行いタミフルへと導いたようです。お見事!

すでにいくつかのグループから数本の合成が報告されているタミフルですが、工程数と収率でこれを超えるのは至難の業ではないでしょうか。本文が公開されるのが待ち遠しい論文です。

ちなみに著者である 林雄二郎研のホームページ でも早速この論文が掲載されているのですが、"Hot Paper" が "Hot Pepper" として紹介されていました。故意(ネタ)か過失(ミス)かわかりませんが、個人的にはこういうの大好きです。笑

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なお、タミフル合成に関しては今月発売の 現代化学 に佐藤健太郎氏と柴崎正勝らのグループによるとてもよくまとまった記事があるのでご覧ください。また、より詳しい総説は柴崎正勝らによる Eur. J. Org. Chem に目を通してみてください。それでは、よいクリスマスを!

[参考] 日本における抗インフルエンザ薬の開発動向としては、第一三共の CS-8958 (ノイラミニダーゼ阻害剤、タミフルと基本は同じメカニズムだけど長時間作用型)が第V相臨床試験に、富山化学の T-705 (RNAポリメラーゼ阻害剤)が第U相臨床試験にあります。これらの薬剤は鳥インフルエンザウイルスに対する作用も非臨床試験で確認されており、一刻も早い承認が望まれています。
[関連] 林 雄二郎 vs ベンジャミン・リスト: アセトアルデヒドの不斉反応 (気ままに有機化学)
[関連] 化学者にぴったりのクリスマスカード (気ままに有機化学)

2009. 01. 05 追記
[論文] "High-Yielding Synthesis of the Anti-Influenza Neuramidase Inhibitor (-)-Oseltamivir by Three One-Pot Operations" Hayashi, Y. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, ASAP

気ままに有機化学 2008年12月24日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 論文 (合成)

アセトニトリル危機

メディアでは金融危機が毎日のように叫ばれていますが、化学者にとってはアセトニトリル危機(供給不足)も深刻な問題ではないでしょうか?

[参考] A Solvent Dries Up (C&EN)

元々アセトニトリルはアクリロニトリル製造の副生成物として得られます(2〜4%程度)。ちなみに製法は金属触媒存在下でプロピレンにアンモニアと酸素を反応させるそうです(アクリロニトリル wikipedia)。また、アクリロニトリルはアクリル繊維や樹脂(プラスチック)などに使われます

そのアセトニトリルが何故供給不足になってしまったのでしょうか?
それには金融危機やハリケーンやオリンピックが関係しているようです。

金融危機で世界的な製品需要の低下が起こり、その結果アクリロニトリルを減産することになり、副生成物であるアセトニトリルの生産量も低下しているのです。特に最近トヨタやビッグスリーの不況がニュースを飾っていますが、自動車のバンパーに使われるABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)もアクリロニトリルを含むため、自動車業界の不況 → ABS樹脂の減産 → アクリロニトリルの減産 → アセトニトリルの減産という構図で化学者にも影響しているようです。実際、日本でもつい最近三井化学や三菱化学が自動車や家電用樹脂の生産設備を停止させるという異例の事態を発表しています(日経ネット)。

また、ハリケーンに備えてアメリカの大きなアセトニトリル工場がシャットダウンしていたことや、オリンピックに備えて中国の工場が一時停止していたことも影響しているそうです。ちなみにオリンピックの方は大会の間の大気状態を良くするために生産停止していたんだとか。

そんなわけで今、アセトニトリルが不足しています。私の会社にも昨日、某試薬業者さんから3Lガロンビンの1種は在庫不足のため暫く注文できないという連絡がきました。ちなみに Sigma-Aldrich によるとこのアセニト不足は来年半ばまで続くという予想です。

アセトニトリルは反応溶媒としてのみならず HPLC や LC-MS の溶媒としても汎用されます。このアセニト不足は化学者のみならず分析屋さんにも大きく影響しそうです。また、アセトニトリルは医薬品の製造(プロセス化学)でもよく使われます。私も製薬企業に勤める身ですので、医薬品の供給が滞ることがないことを切に願います。

気ままに有機化学 2008年12月19日 | Comment(3) | TrackBack(0) | ニュース

萌える元素周期っぽい動画

ちょうど一月ほど前に 萌える元素周期 という記事で 元素周期 萌えて覚える化学の基本 という世にも奇妙な化学本を紹介しましたが、今回その本を映像化したような動画を見つけました。(本当はこの本がネタではなく LaLa (ララ) 2008年 12月号 の4ジゲンの「元素」がネタ元のようです)

各元素の特徴を捉えたセリフと綺麗なビジュアルのクオリティが高くてビックリ!キャラ名は若干強引な感も否めないけど、愛嬌があって面白いですね。

元素をビジュアル化しストーリー仕立てで覚えてみた YU&β

元動画はニコニコ動画(こちら)にアップされていたようです。ニコニコ動画を見るにはアカウントが必要ですが、3日前に You Tube にアップされていたのでこうして紹介することができました。もし他にオススメの化学系動画を知っている方は教えて下さいねー!

気ままに有機化学 2008年12月09日 | Comment(0) | TrackBack(1) | サイト・ツール・本