マウクロウェーブ合成装置はマイクロ波を照射して荷電粒子や電気双極子を振動・回転させることにより急速に加熱するものです。オイルバスなど外部熱源による加熱に比べて熱伝導や対流の影響がほとんどなく、急速に均一に加熱できると言われています(ちなみにマイクロ波の周波数は一般的に、合成装置も電子レンジも同じ 2.45 GHz です)
ここで、マイクロウェーブによる熱的作用では説明がつかない現象が幾つも報告されており、マイクロ波そのものによる反応の促進があるのではないかという非熱的効果が想定されています。例えば、下図のように同じ条件なのに収率や選択性が変わる現象が報告されています。しかし、非熱的効果を主張する論文は現象論がほとんどで、科学的な証明は行われていません。

今回 Kappe らはマイクロウェーブ合成装置の温度測定は IR (赤外線) センサーであり、反応容器の内温ではないことに注目し、この温度差が非熱的効果と誤解されているのではないかと考え、これを検証しました。
内温を正確に測るためのファイバーケーブル温度センサーを開発し、実際に測定したところ、やはり温度差があったようです。IR センサーは合成装置の底部付近の温度を赤外線で測定しているのですが、反応容器内の温度はそれよりも高く、また上部になるほど温度が高いことがわかったのです(IR センサー 100℃ 程度に対して反応容器内上部は 170℃ 程度になることも)。つまり、マイクロウェーブ合成装置では実際には表示温度よりも高い温度の部分も生じていることがわかったわけです。
マイクロウェーブ合成装置内でも十分に攪拌してやれば内温はどこでも同じくらいになり IR センサーの温度ともほとんど同じになることがわかりました。そこで内温が同じになるような条件で上図と同じ反応を試したところ、オイルバスとマイクロウェーブでほとんど違いは見られなかったということです。
この論文では上図の2つの反応を含む4つの非熱的効果を示すような反応をバッサリ切っています。つまり、少なくともこの4つの反応に関しては「非熱的効果はない」ということになります。しかしながら全ての反応における非熱的効果が否定されたわけではないので、非熱的効果を信じる人はそれを科学的に証明するような実験を考えていただけたら、と思います。・・・個人的には非熱的効果があった方が夢があっていいと思うんだけどな。
[論文1] "Nonthermal Microwave Effects Revisited: On the Importance of Internal Temperature Monitoring and Agitation in Microwave Chemistry" C. Oliver Kappe et. al. J. Org. Chem. 2008, 73, 36-47.


